気に食わない。
清光は視線の先にいる審神者を膨れっ面で見つめながら、わざとらしく舌打ちをした。

審神者と一緒にいるのは今剣。
他意がないのはわかってはいるが、清光は無性に苛立ちを覚えて、ガリガリと自身の爪を噛んでいた。

きっともし傷をつけても、主が手入れしてくれるだろう。
そうすればその間、主は俺だけを見ていてくれるからと。


「この前は俺ときらきらした本、読んでくれたのにさ……」

恋する女子、必見!と書かれた、無駄に桃色で彩られた、きらびやかな本。
主が自分のために、自分のことを考えて持ってきてくれたことが、何より嬉しかった。
ちょうどネイルの特集をしてるからと、一緒に見様見真似でやってみたっけ。

そこまで思い出して、もう一度少し離れたところにいる主に目をやる。
近くの石を思うがままに蹴ってみれば、
その石は音を立てて転がって、誰かの足元で止まった。

「安定…」
「?なに、清光。荒れてるの?ブスがどブスになるよ」
「おまえ眼球死んでんじゃないの」

清光が苛立ちを更に強まらせていると、
安定は特に気にするでもなく少し間を開け、隣に腰かけた。

「で、なに?主のこと好きなわけ?」
「は?!なんで…」
「男の嫉妬は見苦しいよ」
「う゛っ、ぐぐ……!」


見られていたのか、と思わず顔を背ける。
そのままの体制で勝手に見んなよ、と清光が本音を漏らせば、安定は目を細めてじっと清光の方を見つめた。

「ていうかさ、前からそわそわしすぎ。思春期男子かよ」
「は、待って、いつから知ってたわけ、てかなんで、」
「なんでも何も、ここには女なんて一人しかいないんだから、言わなくても分かるじゃん」
「………それも、そうね」

立ち上がってぐっと背伸びをする。
目線を安定の反対側から上へと変えると、白んでいた空が青くなってきていたことに気付いた。


「短刀共がぞろぞろと出てきたね。主、別れて一人になったけど?」
「…ん、ちょっと行ってくる。ありがと安定」
「………………え」

清光がお礼を言ったという事実がすんなりと受け入れられなかった安定は、
そのままぽかんとした表情で、清光が見えなくなるのを見つめていた。






「あるじーーー」
「…! 清光」
「子守りは終わった?」
「こら、そんな言い方はだめですよ」
「ふふっ、ハイハイ」

清光は、口元を手のひらで覆いながらくすくすと笑った。
だめだと言われても、どうしても母親と息子達のように見えてしまうのだから。
清光が笑ったことにより、審神者の視線は口元を覆った指の先、爪へと注がれる。
左手の薬指、唯一彩られた真っ赤な赤。疑問に思った審神者は、うっすらと口を開き、もう一度閉じた。

「どうしたの?何か言いたいことでもある?」
「あ、いえ……その、今日はどうして一箇所だけなのかなとおもいまして」

なまえの視線の注がれる先は、清光の左手の薬指。
やっぱり、気付いてくれた。
清光は思わず緩む口元を再び覆い隠した。

「……これはね、片思いのしるし」
「片思いの……?」
「俺ね、好きな人がいるんだ」

まっすぐに清光を見つめたまま、なまえは言葉を失った。
その視線に耐えられなくなったのか、清光はくるりと後ろを向く。


「みんなにはヒミツだよ、主!」


ぱたぱたと服をたなびかせながらそこから走り去って、清光はこれでもかというほどニヤリと笑った。
言ってやった、言ってやったぞ!
心の中でそう思う清光の耳は、握りしめている左手の爪のように、やけに赤くなっていた。





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