「よもや愛していた子たちに裏切られるとは…」
呟いたと同時に審神者は、その場に座り込んで小さく笑った。
信じていた。信じ切っていた。きっと自分を信じてついてきてくれているのだろうと。
けれどそれは、彼女の妄信だったようだ。
「ここを捨てて逃げないのか」
「私の存在意義はここで審神者を続けること。ここを捨てるは死ぬに等しいのです」
なまえの存在意義は審神者であること。審神者でないなまえに意味なんて、ありはしない。
国に殺されるか、かつての仲間に殺されるか。どうせ死ぬのならば、私はーーー
そう思い審神者はくるりと視線を近侍へと向ける。視線の先のその表情は暗くて、重い。
笑ってほしい。不敵に、どこかあどけなく、いつもみたいに笑ってほしい。私の大好きな、
「薬研。わかっていますね」
「…………」
薬研は苦虫を噛み潰したような顔をして、審神者から目を逸らす。
薬研、私の大好きな薬研、どうかもっと顔をよく見せて。訪れる最期まで、ずっとあなたの顔を見ていたい。
そんな思いを込めて、審神者は薬研を見つめ続けた。
「……大将も人が悪いな。俺っちの名前の由来、知っててそう言うんだろ?」
「ええ、私が薬研のことで知らないことなどありません」
「………敵わねえなあ、大将には」
自慢げにそういう審神者に、薬研は思わず苦笑する。そのままゆっくりと歩を進めると、薬研は審神者の前にそっと腰を下ろした。
「…ひとつだけ条件がある」
「はい、なんなりと」
「俺も、大将の手で終わらせてくれねえか」
薬研の手が審神者の手をつかむ。掴まれた手はそのまま薬研の首元へと進み、冷たい肌に触れる。ごくり、と唾を呑んだらしい喉が、脈を打った。
「………薬研」
「おっと、断るのは無しだぜ、たーいしょ。死ぬなら俺もお供するさ」
薬研は音を立てず審神者の懐から守り刀を取り出し、審神者に握らせる。少し怯んでから、やがて決心したように力を込めて刀を握った。
「愛してるぜ、大将」
「私も………愛していますよ、薬研」
本丸に数十振りもの刀剣が集う。全ては審神者を殺すために。次々と刀剣達が本丸を探索して行く中、一振りの刀が怪しい人影を見つける。
重なり合った人影を見つけたかつて仲間だったであろうその刀は、そっと近くに火をつけ、そのまま立ち去った。(150301)
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