きらめく仄めき
帰ってきたら、おかえりって、お疲れさまって、ありがとうって、たくさん伝えてあげたい。
迷いは晴れたと。私に見出されたことが大事だと。この本丸に帰ると言ってくれた彼を、早く迎えたい。
逸る気持ちを抑えられず、私は本丸の中を何往復もしていた。
往復するたびに何度も獅子王が宥めてくれたけれど、私もその度にありがとうとだけ言って本丸内を歩き続けた。
ーー障子に、山姥切国広の影が映る。
私は、息をするのも忘れて、その戸が開くのを待った。
「写しがどうとか、考えるのはもうやめた。俺はあんたの刀だ。それだけで十分だったんだ」
ようやく吸い込んだ空気は、驚くほど澄んでいた。
「〜〜っ山姥切国広、おかえ…!」
「おーー!おかえりーーー!」
そんな空気も読まずあっけらかんと入ってきた獅子王が私の隣に立った。
ぽかんと何も言えないまま獅子王を眺めていると、まだ会話らしい会話もしていない山姥切国広の視線がそちらへ行ってしまう。
「獅子王か」
「おつかれおつかれ!なあ聴いてくれよ〜!こいつ、おまえがいなくて二回も泣いてたんだぜ〜?」
「……そうなのか」
「え、そ、そうはそうなんだけど…!」
空気をぶち壊すだけじゃ飽き足らず、なんでバラしたりするの、という恨みを孕んだ視線は、すぐにかき消えた。
「だからさ、主のことも褒めてやってくれよな」
にっこりと嬉しそうに、そしてとても優しそうに笑った獅子王の声は、この数日間私を宥めてくれた時と同じ声色をしていた。去っていく獅子王にありがとう、と投げかけると、獅子王は振り返らないままひらりと手を振ってくれる。「良い近侍だったんだな、あいつは」。どこか満足げなその声に、私は振り返った。
「俺があんたを褒めるというのも、不思議な気分だな」
「!!べ、別に褒めなくていいよ?!山姥切国広は何年も旅してきてて、かたや私はたった数日、しか…」
「たった、か?」
「………っ」
ああ、ほんとうに。
本当に彼は、山姥切国広は。成長して帰ってきたのだ。
自信を持って、前を向いて。こんなにも綺麗で優しい表情をして、此方を見てくれるようになったのだ。そうなれるよう、旅をしてきたのだ。
「たった数日、なんてことなかった」
「ああ」
「数日じゃなくて、何年にも、何十年にも感じた……」
「…ああ」
「…………さみしかった……」
「……ああ、頑張ったな」
「山姥切国広も、頑張ってきてくれて、ありがとう」
「あんたのための刀、だからな」
「帰ってきてくれて、ありがとう」
ぼたぼたと頬をつたうものも、今は悲しみを湛えてはいなかった。幸せだ。こんなにも幸せで、こんなにも嬉しい涙を流したことはきっとなかっただろう。
「……あんたも、俺を待っていてくれて、ありがとう」
瞼がやけに熱いのは、私が泣きすぎたからだろうか。それとも、山姥切国広の唇が、ぽろぽろと泣き続ける私の瞳に、触れたからだろうか。
赤くなった顔を隠したくて飛びついた山姥切国広の胸は、やけに早鐘を撞いていた。
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