「‥あのさ、ずっと思ってたんだけど」
「? うん」
「いつまで俺のこと成宮呼びなわけ?」
成宮が拗ねたように口を尖らせる。タコみたい、って言ったら怒るかな。なんて能天気なことを考えながら、質問に答える。
「なんで?変える気ないよ?」
「なんで!やだよ!」
「いいじゃん別に成宮でも」
「やーーーーーだ!」
そもそも俺たち付き合ってるんだよね?とじろりと睨んでくるので、思わずぷっと吹き出すと、笑うところじゃないと怒られた。付き合ってなかったら、今一緒にいないでしょ。
「今日名前で呼ぶまで帰してやんないから」
「どうせその前に耐え兼ねて成宮が帰るね」
「うぐ‥‥!」
図星なのか痛いところを突かれたのか、成宮は顔を逸らした。成宮の分かりやすいところ、悪くないと思う。投手としてはどうだか知らないけど。
一人でくすくす笑っていると、成宮は一瞬ムッとしたような表情をしてから、右腕を身体に、左腕を頭に回した。動けないと抗議すると、動けなくしてんのと言われる。横暴だ。
「名前で呼ぶまでちゅーする」
「はあ!?何意味わかんないこと…!」
「はい、さーん、にーい、いーち!」
声とともに成宮の顔が近付くと同時に後ずさりしようとして、出来ないことを思い出す。さっき、成宮はなんて言ったっけ。名前で呼ぶまで、ということは、呼ぶまでやめないってことだろうか。けどそもそも、やめてくれなかったら呼べないじゃないか。まさか、成宮はそれが狙い‥‥?
成宮の鼻が私の鼻先に触れて、もうこれ以上猶予はないと、半ば自棄になった。呼べばいいんでしょ、呼べば!
「‥‥‥め、鳴」
なんだか無性に恥ずかしくなって、視線を逸らしながら言えば、成宮が息を呑むのが分かった。まさかそんなに驚くほど呼ぶと思っていなかったのだろうか。そう思って視線を成宮の方に戻すと、不意に視界が覆われる。事態を飲み込む間もなくすぐに私の視界を覆っていた成宮の顔が露わになって、成宮は照れくさそうに、それでいてちょっとだけ嬉しそうにこう言うのだ。
「ごめん、呼んでくれたのにしちゃった」
ALICE+