「轟くん!」
机を大袈裟に音が鳴るくらい叩いて、顔をずいと近づける。轟くんは心底驚いたとでも言うような顔をして、肩を跳ね上がらせた。
「私の名前わかるよね?!言ってみて!」
「‥苗字、さん‥‥?」
「そう!それだよ!」
「!?」
おそるおそる確かめるように言う轟くんに少々突っ込みを入れたい気持ちに駆られつつ、私は性急に本題に入ることにした。
「そろそろ轟くんは私のことを名前で呼ぶべきだと思う!」
「‥な、名前」
「そう!一応!私たち!お付き合いを!しているわけだし!」
「カ‥カハハ‥‥カハハハハ‥!」
途端にぽっと頬を染める轟くんに、つられて私まで恥ずかしくなる。いかんいかん、轟くんのペースに巻き込まれてしまっては名前呼びという新たなステージが!
「‥と、というわけで轟くん!私を名前で呼んでくれませんか?」
「名前‥‥」
「だ、だめかな?」
「名前‥‥‥」
轟くんは何かを訴えたいのか、視線をあちこちに彷徨わせている。名前名前と繰り返しているからやっぱり恥ずかしいのかと思ったけど、そうじゃないのかな。
どうしたの、と質問してみる。すると、轟くんはみるみる赤くなって、黙り込んでしまった。それでも必死に言葉を紡ぐのを待っていると、轟くんは机に置いていた私の手に手を重ねて、こちらを見つめる。
「‥その、苗字さんも‥‥」
「っわ、私‥?」
「雷市って、呼んでほしい‥‥」
「‥‥‥‥へ」
言い終わったと同時にすぐ視線を下にずらして汗を飛ばしている轟くんに、私は正直ときめきを隠せないでいた。そう言えばそうだ。私だって轟くんのこと、名前で呼んでなかった。けどまさか、轟くんからそんなおねだりを頂けるとは思っていなかった。嬉しい。どうしよう。今すぐにでも名前を呼んで轟くんの喜ぶ顔が見たかったけれど、私は轟くんより年上のお姉さんなのだ。年功序列というものがあるのだから、こういう時こそ轟くんから男を見せてもらわないと。
そう思って「轟くんが呼んでくれたら、呼んであげるよ?」なんて言ってみれば、轟くんはまた顔を真っ赤にしてから、黙り込んでしまった。それから数分経って、小さくなまえさんと呟くのだから、やっぱり雷市くんは可愛い。ALICE+