彼女の俺を呼ぶ声が好きだ。優しくてどこか甘ったるくて、それを聴くだけで穏やかな気持ちになれる、彼女の声が。
どんな時でも彼女の声を聴くだけで安心できた。彼女の温かな声に、俺はたくさんのやすらぎを貰ってきたのだ。

‥‥のだ、が。

「沢村」
「‥‥‥なまえ」
「どうしたのぼーっとして」

そう、なまえ。俺は彼女を名前で呼んでる。それは他でもない、なまえが俺の彼女だから。彼女。俺が好きだと言って、彼女も好きだと言った。晴れて恋人になったはずだった。

「沢村?聞いてる?もしかして具合悪い?」
「聞いてる聞いてる!」
「ならいいけど」

‥‥恋人の、はず、だけど。なまえは恋人同士になってから一度たりともそれっぽい雰囲気にしてくれたことがない。
本当に、俺のことが好きなのかとか。そう言ったことばかり考える。なまえの俺を見る目は、出会った頃から少しだって変わっていない。

「‥‥やっぱり、元気じゃねえかもしれん」
「え?」
「いや、うん。でも‥ぐぬぬ‥」
「? 沢村‥?」

心配そうななまえの瞳に、罪悪感が募る。考えたってしょうがない。俺は、勢いよく立ち上がった。

「なまえ!!!」
「えっはい!!」
「俺のこと好きか!!!!!」

なまえは突然のことに目を丸くしていたけれど、俺の言葉にりんごみたいに顔を真っ赤にした。可愛い、なんて思考回路が逸れていくのを感じていると、なまえはゆっくりとその赤い顔を縦に振った。

「じゃあ俺の頼みきいてくれるか!!」
「ど、どうぞ!」

私で出来ることなら、と付け加えたなまえの手をがばっとつかむ。さっきよりますます赤くなっていく頬に目を奪われながらも、俺は思っていたことをそのまま口にした。

「俺を栄純って呼んでくれ!!」
「‥‥‥‥‥え?」

しばしの沈黙のあと、なまえはクスクスと笑い始めた。そんなにバカっぽかったか?!と内心焦り始めていると、なまえは心底愛おしそうに、あの優しい声で俺を呼ぶんだ。

「栄純」

プロポーズでもされるのかと思っちゃった、なんて優しく笑う彼女に、勢いでプロポーズするまで、そう時間はかからなかった。
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