わたし、小学3年生になりました。世間ではそりゃ、まだ子供なんて言われる歳かもしれないけれど。わさび入りのお寿司だって(めちゃくちゃ水飲みながらなら)食べれるし、ブラックコーヒーだって(息を止めながらなら)飲めるんだから、じゅーーぶん大人なの。なのに、


「なんで?なんでだめなの??わたしの何がだめなの???」

「なにがって言われても、ねぇ…」


ぶっすーと納得いかない事を盛大にアピールしながらぶくぶくと(ミルクのたっぷり入った)アイスコーヒーに息を吹き込んだ。そんなわたしを困ったように見下げてくるのは、わたしの将来の旦那様、もといずーーっと告白し続けているポアロの店員さんである安室さんである。

因みにわたしはブラックコーヒーを頼んだのに安室さんがにっこり笑ってミルク入りのコーヒを出してくれたのだ。わたしの意思に反して出されたものだけれど愛しの安室さんが出してくれたものだから、しょ、う、が、な、く!ブラックコーヒーも飲めるわたしはこの甘くて美味しいミルクコーヒーを飲んであげているのだ。えっへん。


「安室さんが言ったんだよ?もう少し大人になったらね、て。わたしもう大人だよ??ほら!見て!こーんな高いヒールの靴も履けちゃうんだよ!?」

「おや、随分と可愛い靴だね。ピンクのリボンがポイントかな?」

「そうなの!これに一目惚れしてママにおねだりしちゃったの!その代わりママのお手伝いしなきゃならないんだけどね…」

「へぇ、偉い偉い。それじゃあ今からお使いにでも行くのかい?」

「うん。でも今日はむしむしして暑いから、ちょっときゅーけい!ポアロの外から覗いたら安室さんがいたから寄っちゃった!」


へへへっと笑うと安室さんはまた困ったような顔で笑った。何か忘れてるような気もするけど、安室さんにおにゅーの靴を褒められて気分はウキウキだ。そう、まさにこのピンクのリボンが可愛くてママに強請りに強請りまくって買ってもらったのだ。


「今日は午後から雨が降るかもしれないから、早めにお使いを済ませた方がいいんじゃないかい?」

「え、そうなの!?」

「ほら、折角の可愛い靴が雨で汚れてしまうよ」

「それはやだ!ごめんね、安室さん。今度はちゃんと来るからね!浮気しちゃだめだからね!」

「ハ、ハハ…。又のお越しをお待ちしてますよ。」


折角安室さんが入れてくれた飲み物を残すわけにはいかない。残りを無理やり喉に通らせて、ぴょんっと椅子から飛び降りる。安室さんに会うときはカウンターのこの席と決まっている。安室さんの作業する姿が最高にかっこよく見えて、ここは特等席なのだ。

にこりと笑う安室さんに手を振って、レジでお家計をする。「今日はどうだった?」梓さんがお釣りを渡しながらこっそり聞いて来る。なにが?と首を傾げれば、あれ?と梓さんも首を傾げた。よく分からないけれど雨が降る前に帰りたかったのでじゃあね、と梓さんにも手を振ってとーーーっても名残惜しくポアロを出る。見上げた空は、確かにどんより薄暗くて雨が降ってしまいそう。


慌ててお店まで走りながら、ふと気づく。わたしまた告白の返事貰えてない!!梓さんは、わたしがずーーっと安室さんに告白してるのを知ってるから、最後のあれは結果を聞いてきてたんだ。わたしのバカ!


いっそポアロまで引き返してやろうかと思ったけど、これ以上ママを待たせたら我が家にだけ雨どころか雷まで落ちてきちゃいそう。ちぇ、とポアロがある方向を睨んでから、安室さんの笑顔を思い返してやっぱり睨むのを辞めた。お待ちしておりますって言ったもんね。今度晴れたら真っ先に安室さんに会いに行こう。しゃこーじれーっていうの?子供には通用しないんだからね!目指せ!安室の女!!