た〜ま〜や〜



まだ花火も上がる前だというのに、土手で小さな子ども達がはしゃぐように叫んでる。意味も分からず大人の言葉を真似してるようで、何が面白いのかキャラキャラ笑って実に楽しそうである。


「無邪気ですねぇ」

「けっ。こっちは警備に駆り出されて祭りどころじゃねぇってのによ」

「にしては土方さん、こんな所で油売ってていいんですか」

「あ?これも立派な見回りだろうがよ」


スパーッと煙草の煙を吐き出して土方さんが流し目で此方を見る。ううん、無条件でかっこいい…。

本来祭りが行われてるのはもっと奥の方だ。私は人混みも苦手だしでお店の片付けをしているのだけど。何だってこんな所に土方さんが来てるのか。


「大体、おめェは祭り行かねぇのか?」

「私人混みが苦手で…。ここからも充分花火見えますし。」

「あー、穴場ってやつか」

「ですかね?」



どんどん真っ暗になる夜空の下。土方さんと肩を並べて立っている今この瞬間が何だか不思議で、くすぐったい気持ちになる。



ドンッ



「あっ!」

「始まったみたいだな」


大きな音と共に夜空に色とりどりの花が咲いていく。きれいだなあ。子供の頃はこの大きな音が苦手で花火が上がるたび泣いてたっけなあ。こんなに綺麗なのに、何であんなに怖がってたんだろう?


「土方さん、花火上がっちゃいましたけど本当に大丈夫なんですか?」

「なんだよ俺がいちゃ迷惑か?」

「え!?いやいやいや!そんな事は無いです!寧ろ嬉しいです!」


あ、つい勢いよく余計な事も言ったかもしれない。慌てて土方さんを盗み見すると「…そうかよ。」と小さく呟いてそっぽ向いてしまった。うーん、暗くて表情がよく見えない。あ、そういえば、


「ちょっ、ちょっと待ってて下さい!」

「あ?ああ…」


確か今朝お客さんに貰ったものがあるはず…。店の奥から小さな袋を掴んで急いで土方さんの元へ戻る。土方さんはああ言ってるけど、仕事中だし何があるかも分からないからいついなくなってしまうか分からない。

いそいそと店先に戻ると、土方さんはお店のベンチに腰掛けて短くなった煙草を灰皿に押し付けている所だった。ナイスタイミング。2本目に手が伸びる前にじゃんっと目の前にそれを差し出した。


「…線香花火?」

「はい。お客さんから貰ったんです。良かったら一緒にやってきません?」

「でけぇ花火の下で線香花火たァ、職人泣かせだな」


ククッと小さく土方さんが笑って、私から一本花火を受け取る。確かにせっかく大きな花が夜空に咲いてるのにこんな小さな花を咲かすのは私たちぐらいかもしれない。

土方さんがポケットからマヨネーズ型のライターを取り出して私が持ってる花火に火を付けてくれた。さり気ないそんな優しさが嬉しくて頬が緩んでしまうのは仕方が無いことなのだ。


「…きれいですね」

「…ああ」


パチパチと小さな火花が飛び散る。大きな花火も良いけれど、私はやっぱり手元に咲くこの花火が一番好きかもしれない。


「私花火って怖かったんですよねぇ」

「は?どこに怖がる要素があんだよ」

「うぅ〜ん。綺麗なのは綺麗なんですけど。音が苦手なんですよね〜。あんな大っきい音で主張激しいくせに一瞬で散るじゃないですか。自己主張激しいのか謙虚なのかどっちかにしろよ、みたいな。」

「お前結構面倒くさい性格なのな」

「ひ、ひどい…」


ま、真顔で毒吐かれた…。
反論しようと身を乗りだそうとした、ら、ーーポトッーー揺れた反動で火の玉が落ちてしまった。えええええ!まだピークにも達してないのに!これからって時なのに!!


「あ〜あ〜」


ハッと土方さんの方を見るとニヤニヤした顔で此方を見ている。土方さんの手元にはまさに今ピークを迎えてる線香花火。何だその勝ち誇った顔…!!


「土方さんズルい…!!」

「なっ…!!ズルいのはどっちだバカ!揺らすなコノヤロー!」


思わず土方さんの腕を掴んで揺らす。が、意外にも土方さんは鬼の形相で手元を揺らすまいとガードを固めてきた。負けず嫌いか…っ!!既に勝ってるくせに…!!


わーわーと激しい攻防戦を暫く続けていると、


ーーポトッーー


「「……あ。」」


土方さんの線香花火は遂に地面へと吸い込まれてしまった。自分で妨害しといて何だか罪悪感が芽生えてしまうのは何でだろう。呆然と2人して落ちた花火を見ること3秒。「たっく…」やれやれとゆっくりした動作で土方さんが立ち上がる。


「そろそろ戻るか。花火終わりの帰りのが混雑するからな」

「あ…。お疲れ様です。ごめんなさい、何だか変に引き止めちゃって」

「何でお前が謝んだよ」



ぽん、と大きな手が頭を撫でる。こ、この人は自分がカッコ良いと理解してないのだろうか。かあっと熱くなる頬はきっと夜に紛れて見えてない、はずだ…。


「来年はズルすんなよ」

「……え?」

「それからこっからこの道は帰宅ラッシュに巻き込まれんだからちゃんと戸締りしとけよ」

「え、あ、は、はい!」



じゃあな、とヒラヒラと手を振りながら土方さんは祭りの中心へと歩いていった。暫くその後ろ姿を見ながら言われた言葉を頭の中に並べる。来年、来年、来年…




「……調子乗っちゃいますよ、全く」





来年も貴方の隣にいれることが、こんなにも嬉しいなんて。止まらない胸の鼓動を貴方はきっと知らないでしょう。






(土方さん、仕事サボって逢引たァ良いご身分ですねィ)
(な、何の話か分かんねぇなあ)
(土方さん、煙草逆向きでさァ)(ッ…!!)