ジーリジーリ。
肌が焼かれてく。
死んでしまいそうだ。


「ダンテさーん、いい加減クーラー直しません?」

「んな金あったらとっくにやってる」

「じゃあ仕事して下さいよー」

「俺は仕事を選ぶんでね。」

「ニートが偉そうに言える立場ですか」


悪魔関係の仕事なんてそう滅多に来るもんじゃない。そりゃ、一回来ればそれなりの報酬は貰えるけどこの人金遣いが荒いから一瞬で無くなってしまうのだ。

そんな状態で家政婦的な事で雇われた私は給料だって不定期である。この人の側にいれば刺激が強くて飽きないのは良いことだけど、お金の事はしっかりして頂きたいものである。

それでも辞める発想に行かないのは、相当この人にハマってる証拠なのかもしれない。(絶対本人には言わないけど。)(すぐ調子乗るんだから。)


「うぅ〜ん。暑い。心頭滅却しても暑いものは暑い。」

「何だそれ」

「クーラー買ってくださいっていう諺です。」

「絶対違うな」

「バレましたか」



やれやれと肩をすくめる姿は様になってカッコ良い。カッコ良いけど、服を着ろとも言いたい。
この人はいつも半裸だ。半裸に赤いコートで出かけるもんだから、初めて見たときはそりゃもうドン引きしたものだ。


いーなー、男の人は。
流石に暑いからといって服を脱ぐ発想にはならない。これでも花も恥じらう乙女なのだ。異論は認めない。



「あ、そうだ。」


ふと思い立って台所の戸棚を漁る。何だ何だと後を付いてくるダンテさんを無視して戸棚の奥に眠っていたそれを引っ張り出した。

じゃじゃーん


「か〜き〜氷〜機〜」

「へぇ?」

「あれ、通じない?」


そんな馬鹿な。青いタヌキ型ロボット風に掲げてみたものの、とても不思議そうに適当な相槌を打たれる。世界共通じゃないのか…はたまたダンテさんがアニメに疎いのか。…どっちもかな。


まあそれはともかく。
少々埃を被ってるものの洗えば問題ない。エンツォさんから去年頂いたのを今年になってようやく活躍できる。要はすっかり忘れていたのだ。



「夏といえばかき氷ですよね〜」

「俺ならただの氷食うぐらいなら最初から味の付いたアイスを食うな。」

「元も子もない!ダンテさんは夏の楽しみ方を分かってないんですよ!半裸だから!!」

「半裸関係あるか?」


全く。年がら年中裸になりすぎて頭おかしくなってしまったんじゃないだろうか。半目で睨む半魔を無視して早速氷を取り出す。

自動で氷ができるようなハイテクな冷蔵庫はこの事務所にはない。勿論手動である。氷を出し切ってもう一度水を入れて冷凍庫に戻す。全く今を何世紀だと思ってるのか。未だに手動で氷作る家庭なんてここぐらいじゃない?


「よし!さあダンテさんお願いします!」

「ナンデヤネン」

「おお!ジャパニーズツッコミ!いつの間に!?」

「バージルが日本好きだったからな。つか何で俺だよ。」

「だって氷削るの体力いるじゃないですか。その点ほら、ダンテさんは筋肉馬鹿みたいな良い体してらっしゃいますし。ちょちょいのちょいでお願いします。」

「他力本願にも程があるぜ女王様」


最近ダンテさんは私の影響かすっかり日本の言葉を話すようになった。諺とか四字熟語とか難しいのに。無意識に話してるところがまた可愛い。なんちゃって。


まあまあ、なんてダンテさんを宥めながらちゃっかりかき氷機の前へ移動させる。何だかんだ言いながらも力仕事をやってくれる姿は実に紳士である。これでキチンと服を着てくれていたらときめいていたかもしれない。


ガリガリガリガリガリガリガリガリ



「わ!懐かしい音!」


子供の頃夏になれば自主的にかき氷を作ったものである。ただの氷なんだけど、ひんやりとかき氷〜って感じの匂いがするからワクワクする。あー、夏だなあ、夏も悪くないなあ〜って思わせるから不思議だ。


ガリガリガリガリガリガリ


「ところでさ」

「はい。」

「この家シロップなんて置いてあったっけ?」

「……あ。」




(ダンテさん、)(流石にこんな暑い中買いに行ってやるお人好しではないからな)(じゃあダンテさんのストロベリーパフェ用のイチゴソースで)(行ってきます!!)