※赤葦くんの呼び方の話





「赤葦って呼びづらいよね」

部活終わり。バレー部のマネージャーである先輩とネットを畳んでいると急な発言。視線を向ければ難しい顔をした鈴木先輩がこちらを見ていた。

「木兔なんて絶対あかーしって呼んでるもん」
「…何ですか突然」
「あ、今面倒くさいって顔したでしょ!」
「してないですよ」
「した!わかるんだからね!」

引かない先輩にため息を一つ。正直自分の名字が呼びやすかろうと呼びにくかろうと、伸ばし棒を挟んで呼ばれようと呼ばれなかろうとどうでもいい。のだけど、本人が全く気にしていないことがこの目の前の人は気になるらしい。
それなら、とネットの弛みを直しながら提案してみる。

「面倒くさいんで名前で呼んでください」

これで文句ないですよね。と付け加えてまた視線を先輩へと戻せば、その顔は驚きへと変わった。そして何やら気まずそうな表情へ。

「い、いやあ…」
「何ですか」
「だっていきなり名前呼びになったら付き合ったって勘違いされそう、だし」

その言葉に思わず噴き出せば笑うな!と怒号が飛んだ。

「そういうの気にするんですね」
「っ!わ、悪い!?」
「まあ、誰も追求しないと思いますけど、」

それでも気になるなら、

「勘違いじゃなくすればいいんじゃないんですか」

丸め終わったネットを持ち上げ、目をぱちくりさせる先輩に近付く。

「…意味わかってますか」
「え、っと」
「俺と付き合うことになれば名前呼びでもおかしくないんですよね。なら花先輩、俺と付き合ってください」

その言葉にみるみるうちに顔を赤くしていく。会話の流れが面倒くさいところから始まったのは紛れもない事実で、だけどそれだけの理由でこんなことを口にするほどひねくれてはいない。いつも突拍子がなくて、明るくて、何事にも一生懸命で。周りを気遣うくせに自分のことには疎い、放っておけない存在。チームにとっても、俺に、とっても、大事な存在。

「…私一応先輩なんだけど、」
「知ってます」
「あんまり年上をからかうのはどうかと、」
「からかってませんよ」

他人の本気がわからないほど鈍くはない人だと思っている。赤い顔も逸らされた目も俺の感情が本物だとわかっているからこその反応。なのに冗談で済まそうとするこの人をどうしてくれようか。

「鈴木先輩、」

名前を呼んで耳元に唇を寄せる。

「俺、本気ですから」

びくり震えた肩から手を離し、先輩を見ればまるで機械人形のように口をぱくぱく。

「ふっ、くく、」
「っちょ、赤葦!!」
「赤葦じゃなくて京治です、花先輩」
「〜っ!!」

そんな顔で睨んでも怖くないんだけど、そんなことを思いながら再び口元を緩めた。