射し込む光に目を開ける。
枕元の時計を確認すれば時刻は7時を回っていた。いつもならとっくに鳴っているアラームは静かで、そういえば今日は休みだったかと癖で起きてしまった自分を少し恨んだ。既に脱け殻になっている隣に気付くと同時、扉を挟んで聞こえる物音に首を傾げた。洗濯機、でもなし、掃除機、でもなし。答えを求めるべく、まだ覚醒しきらない頭を抱え、私は寝室から出た。

「あ、花。はよ」
「………何やってんの」
「見りゃわかんだろ。朝飯作ってんの」

髪の毛ぼっさぼさの私とは対照的にキッチンに立つ賢二郎は着替えを済ませ、包丁を握っていた。

「え、賢二郎料理できたの」
「一人で暮らしてんだから自炊くらいするわ」

眉間にシワを寄せ、『何言ってんだ』と言わんばかりの表情でつっこまれ、まあそりゃそうかと納得する。けれど今まで彼がキッチンに立つところなんて見たことがなかったから見慣れない姿に驚きを隠せない。エプロンも着用しているのを見るとこなれている感も出ている。賢二郎のことだ。形から入ることもさながら、きっとザ・男の料理!では片付けられないくらいのものは作れるのだろう。
いい匂いにつられたのと、興味が沸いたのとで、そろり、後ろから覗きこむ。見えたのは一口大に切られた切られたアスパラやベーコンやじゃがいも…

「ほ、本格的!」
「…うるさい」
「何作ってくれるの?」
「オムレツ」
「オ、オムレツ…」

なんだその女子力高めなチョイスは。いや、今日日料理男子ならオムレツにアスパラとかベーコンを入れるのは当たり前?賢二郎がそこに含まれるのかはわからないが、自炊の一言ではきかないレパートリーや一通り調味料が揃った棚を見る限り彼にとってはよく作る品なのかもしれない。

「何か手伝うことある?」
「まず着替えてこい」
「は、はい」

間髪入れずの指摘に反射的に返事をして寝室に戻る。ある程度の身支度を終え、賢二郎の元へ戻ると彼は玉ねぎを取り出したところだった。

「白布シェフ!私は何をすればいいでしょうか!」
「…玉ねぎ切って」
「はい!」

びしっと敬礼を決め、隣に並ぶ。いつもここに来た時は私しか立たない場所に二人で立っているのはなんだか不思議でなんだかこそばゆい感じがした。




***




「完成」
「…おいしそう」

テーブルの上に並べられた料理に思わず声が漏れた。オムレツにスープ(私の切った玉ねぎはここに入った)、サラダにコーヒーにパンケーキ…どこかのカフェで食べる朝食さながらのメニューと盛り付けに胃が騒ぎ立てる。

「「いただきます」」

手を合わせてフォークを取る。まずはオムレツを、と一口含めばふんわりとした食感が広がった。

「…賢二郎天才じゃない?」
「大げさ」
「いやいや本当に。こんなおいしいもの作れるなら私いらなくない?」
「俺は花の作る飯好きだけど」
「…さいですか」
「何、照れてんの」
「は、はあ!?照れてないし!」
「分かりやすすぎ」

そう口元を緩ませる奴を横目にオムレツを頬張る。くそう、おいしい。ナイフを入れたパンケーキは少し緑がかっていて聞けばホウレン草を生地に混ぜこんだらしい。スープも味付け抜群。もろ私好み。…ここまでくるとなんというか腹立たしく思えてくる。作ってもらっておいて何言ってんだって感じだけど。腑に落ちない感情を抱えつつそれでも食べ物に罪はないと美味しくいただいていれば、「朝は交代制でいいよな」淡々と吐かれた言葉。

「……ん?」
「だから、朝飯。交代制でいいだろ」
「は、はい…………はい?」

私の肯定ともとれない返事に賢二郎は「なら決まり」と再びフォークを動かし始めた。いやいや今の何。

「あのー…白布さん?」
「あ?」
「いきなりガラ悪いな。理解力に乏しい私めは意味がわからないんですけども、つまり私がここに来た時の朝ごはんは交代で作るということで合ってますか」
「半分正解半分不正解」
「はあ?何その難題」
「…だから、」

カチャリ、目の前の賢二郎がフォークを置いて。言いづらそうに逸らした視線が言いづらそうに戻ってきて。

「…一緒に住もうって言ってんの」

な、んと、まあ、

「…珍しい。賢二郎が照れてる」
「照れてないし」
「分かりやすすぎ」
「そういうお前も分かりやすすぎ」
「どこがよ」
「顔にやけてんだよ」

そう伸びてきた賢二郎の手が私の頬を引っ張る。少し不服そうな顔をした彼の目にはきっと口元の緩みが止められない私が映っているのだろう。





陽だまりを朝食に
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お題ボックスより「白布と料理を作ったり作らなかったり」