「伝えたいことがあります」

私の目の前に立つ菅原くんが真っ直ぐな目をしてそう言った。

「…私もです」

その目に応えるように私も精一杯顔を上げた。




菅原くんは気さくな人だった。口数の多くない私に他愛もない話題を振ってくれて、笑ってくれた。最初隣の席の義務的なそれかとも思ったけれども、菅原くんを知れば知るほど、そうではないことに気づいた。義務だとか責任だとかそんな固いものは菅原くんの中にはなかったんだと思う。誰にでも優しくて明るくて、やんわりと間に入れる人。菅原くんはいつしか私の憧れになった。
そんな菅原くんの誕生日を聞いたのはつい最近。何となく私の勝手なイメージで春真っ只中生まれだと思っていたから梅雨時期だと聞いたとき驚いてしまった。

「え、そんな意外?」
「あ、別に悪い意味じゃないんだけど、その、菅原くんてあったかいイメージだから何となく春生まれかなあって」
「へー。鈴木から見て俺ってあったかいイメージなの?」

そう聞いた菅原くんの頬が嬉しそうに紅潮していて、思わず心臓が鳴ってしまったのは記憶に新しい。6月13日。私にとっても大切な日。仲良くなった菅原くんの誕生日。
なのに、なのに。
鞄を幾度となく漁る。ない、ない。
一瞬にして気分が落ちる。やってしまった……今日に間に合うようにと用意したプレゼントをあろうことか玄関に置きっぱなしにしてきてしまったのだ。あの時きちんと確認していれば、なんて後の祭りだとはわかっているけれどそう思わずにはいられない。

「鈴木おはよ」

ずーんと傍目にも肩を落とした私に掛けられた声。持ち主は、

「…菅原くん」
「随分暗いな?なんかあった?」

心配そうに私を見る菅原くんに慌てて首を振る。

「だ、大丈夫、何もない!平気!」
「ほんとに?」
「ほ、ほんと、」

じーっと疑いの目を向ける菅原くんに冷や汗。プレゼントを用意したことすら本人に内緒なのにそれを忘れましたなんて言えるわけない。精一杯へらりと笑えば渋々納得した様子の菅原くんが今度は少し真面目な顔をした。

「…今日の放課後時間ある?」
「へ?あ、うん」
「話したいことあるんだけど」

そう言った菅原くんは今までに見たことのない菅原くんだった。なんで放課後なんだろうとか今じゃだめな話なのかなとか考えることはたくさんあったはずなのに、菅原くんの表情に緊張したそれを感じて私は何も言えずに頷いた。
そして、話は冒頭に戻る。

「…わ、私も菅原くんに言いたいことがあって……その、実は、」

もう素直に謝ろう。プレゼントを忘れてきたことを謝って、せめておめでとうくらいは言いたい。一度逸らした視線を再び上げれば途端制止の声が掛かる。

「え!ちょっ、待った!!」
「え?」
「…俺から、言うから」

何を、と問う間もなく今朝と同じ菅原くんの目が私を捉えて。

「…好きです。俺と付き合ってください」

紡がれた台詞に息が止まった。
今、なんて、
頭の中で巻き戻されたそれに一気に熱が灯る。

「え、ええ…!」
「…そんな驚かれるとちょっと傷つくんですが」
「だっ、ごめ、あ、や、えっと、ちがくて…」

パニックとはまさに今の私のような状態を指すのだろう。だって、そんな、まさか、

「…鈴木ちょい待って」
「は、はい!」
「……一つ聞きたいんだけど」

頭をぐるぐると回す私の前に立つ菅原くんが、何かに気付いたように小さく挙手をした。

「さっき言おうとしたのって…」
「あ、えっと、実は私菅原くんに用意したプレゼント忘れてきちゃって…だからその、ごめんなさいって…」
「…………」
「…………」
「…だああああ!!!!」
「え、え!?」
「てっきり……あー…俺今ものすごい恥ずかしい奴だ……」

そうごちた菅原くんが意を決したように頬をぱしんと叩いた。

「…鈴木に告白、されるのかと思った。だから先に言わなきゃって……あーもー…俺ほんとバカすぎない…?勘違い野郎って罵ってくれていいから…」
「罵らないよ!う、嬉しかった、」

心臓が高鳴って、飛び出そうになって、頭が追い付かないくらい。尻窄みになりながらもそう言えば、菅原くんはこほんとひとつ咳払い。

「……そういうこと言われると期待するんですが」
「っ、」
「…なんて。困らせてごめんな。そしたらとりあえず、今週の日曜日空いてる?」
「あ、空いてる」
「デートしませんか?」

いつもの調子を取り戻したのか菅原くんが明るく笑う。けれどその顔がいつもと同じに見えないのは、菅原くんの周りがやけに煌めいて見えるのは、なんでなんだろう。
家の玄関に置いてきたプレゼントを渡す日は、たぶん、私がその答えにたどり着く日だ。




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HAPPYBIRTHDAY!
Koushi Sugawara
13/Jun/2017