「…びっくりしたー…」
びっくりしたのはたぶん彼女も同じだ。見上げた顔が俺と並ぶくらい赤くて、それにさらに驚いて頭が動く前に逃げ出していた。熱が冷めるように走って、走って、走って。
家のドアを開け、部屋のベッドにダイブ。
まだ心臓が激しく鳴っている。
(なんだこれ…!)
家族以外に名前を呼ばれることなんて今までに数えるくらいしかなかった。それも幼い頃の話だし、心臓だってこんなにうるさくならなかった。
名前を呼ばれたのが久しぶりだったから、というのもある。が、それよりもたぶん相手が鈴木だったから、だと思う…うん、たぶん。
鈴木とは一回だけ席が隣になって、いろいろ話したけど、それだけで。確かに話しやすいし、優しいし、いい奴だとは思ってたけどそれがどうなることはなかった。
だから驚いた。すごく。名前を呼ばれた時点ではまだぼやけていた脳は、あの赤い表情に覚まされた。
だってあんなの、
「…ん?」
心臓も落ち着きを取り戻した頃、ダイブしてからしばらく枕に埋めていた顔をふと自分の手に移すとそこには見慣れないマフラー。
「なん、」
で、と言いかけてはっとする。…そうだ。驚いてイスから立ち上がるときに肩から落ちそうになって、だから咄嗟に…
もしかして、と記憶を遡る。自分がいつ寝たのかは思い出せないがそのときはマフラーなんて掛かっていなかった。ということは、やっぱり鈴木が掛けてくれた可能性が一番高いんじゃ…
「返さなきゃ…」
再び鈴木の顔を思い出して顔に熱が灯る。ぱし、ぱし、と2回頬を叩き、深く深呼吸をした。
『あ、鈴木!これ、さ、もしかして鈴木の?』
『う、うん。翔陽くんありがとう、』
『それでよかったらおれと…!』
『ジジジジジ…』
『は?』
ジジジジジ…
「んあ…?」
気付いたら目の先には鈴木、じゃなくて天井が……天井、天井!?
はっとして今止めたばかりの時計を見る。
「うああああああ!ち、遅刻!!」
どたんばたんと音を立てながら支度をして急いで下に降りた。部活がないとこれなんだから…と呆れ顔の母ちゃんに肩をすぼめつつ頬張った食パンをようやく飲み込む。そして牛乳を口に含ん…
「…あれ、あんたそのマフラーどうしたの」
「んー?」
「それ女物よね…まさか…彼じ「ぶっ!」
「ちょ、汚い!」
驚きと怒号を含んで飛んで来た言葉にち、違う!と慌てて否定し、その勢いのまま外に出た。
彼女ってなんだ…!だから、鈴木はそんなんじゃないし、ただ一度隣の席になっただけで!
…そういえば今朝の夢…
鮮明に思い出せる鈴木のはにかんだ顔とおれの名前を呼ぶ声。
ああ、もう!
ぐん、と熱が上がったのを感じながら思いきりペダルを踏み込んだ。
2度めは夢の中でした
(夢であったことをキミは知らない)