「だあああ!」
ダンッ
始業のチャイムのなり終わりと同時に教室に響いた声。それに小さく肩を揺らし後ろのドアを振りかえるとそこには息を切らした日向くんがいた。気付かれるのがこわくてわたしは即座に前を向く。
あれからずっと頭の中がパニック状態だ。日向くんの名前を呟いたのは無意識で、はっとしたときには目の前に日向くんの驚いた顔があって。
ああでも聞かれていなかった可能性も、ないわけではない、と思う、し。そもそもちょっと名前呼んでみただけだ、し。
それに起こしてしまったことはどうしようもないってわかってる。わかってる、のに。
いろいろ前向きに考えて平常心を保とうとすればするほどわたしの頭はまたぐるぐると回る。(いつもはあんまり働かないのに)
そんなことを繰り返していたら昨日は一睡も出来なかった。
ああもう、わたしのばか!本当ばか…!
一度席が隣だっただけの奴にあんなこそこそと名前呼ばれたら気持ち悪いって思うよね、
そろ、と再び後ろに目をやる。と、瞬間交わる視線。日向くんの手には……わたしのマフラー。日向くんがわたしに向かって口を開こうとしたその時。
「はい、おはよう日向。遅刻回避おめでとう」
ぱこ、と軽い音がして日向くんの頭に日誌が下ろされた。声の主は担任の先生だった。先生はさっさと席に着く!と日向くんの背中を押すと、わたしの席の横を通り過ぎ、教卓の上に名簿を広げた。
「じゃ今日はここまで。次までの課題しっかりやってこいよー。あ、それと…鈴木。一緒に資料室来てくれ。頼みごと。」
チャイムが鳴り終わると同じくらいに先生がそう言った。わたしの席はなんと教卓の真ん前で、そのため何かと用事を頼まれることが多かった。わたしは短く返事をして先生の後を追おうと立ち上がった。と、
「鈴木!」
呼ばれた気がした。ううん、たぶん呼ばれた。ざわざわする教室で、それでも日向くんがわたしを呼声がここまで届く。好きな人の声が耳を通らないはずがない。
だけど。
一瞬動きを止めるもわたしはそのまま教室を出た。
聞こえない振りをした。
それから、休み時間になるごとに資料室に足を運んで授業が始まるぎりぎりに教室に帰ってくる、というサイクルを繰り返した。(先生がたくさん用事を頼んでくれて助かった)帰ってくる度に友達に日向くんが呼んでたと聞いたけど、ごめんなさい、日向くん、ごめんなさい。
そうこうしてる間に気づけばもう帰りのHRも終わっていた。もうばらばらとみんな帰り始めている。ちら、と日向くんの席を見たけれど、彼の姿はそこにはなかった。
…もう帰っちゃったよね。
諦めと、申し訳なさと、安心感を詰め込んだような重い鞄を持ち、わたしは教室を後にした。
3度めは保留にして
(臆病なわたしは前にも後ろにも動けない)