自分で言うのもなんだが、私は結構な恥ずかしがりやだ。初対面の人も苦手だし、面と向かって何かを言うのも、大勢の人を前にするなんてもちろんできない。日本人だから、と島国特有の気質のせいにしたい時もあるけど、たぶんこれは私単体の問題が大きいと思う。体と心が成長するに連れてどんどんひどくなるこの性格は直せる気があまりしない。
けれど、皮肉なことに人生は必ず自分が抱える悩みと向き合わなければならないようにできているらしい。
「お誕生日おめでとう、孝支くん」
「おーありがとう」
心底嬉しそうに笑うこの人は私の…彼氏だ。菅原孝支くん。同い年の高校3年生で男子バレー部に所属している。孝支くんと付き合うことになったのは去年の夏だった。だから恋仲になってから彼の誕生日を祝うのは初めてだったりする。関係性がほんの少し変わるだけで同じイベントがより特別なものになる気がするのはたぶん気のせいではない。近い位置で、友人としてでは言えなかった言葉を堂々と言えるのだから。
…堂々と、言えるかどうかは私にかかっているわけだけど。
「…孝支くん」
「うん?」
テスト期間中は部活がない。だから普段は忙しい孝支くんと一緒に帰ることができる。今日は梅雨らしく雨がしとしと降っていた。せっかく孝支くんの誕生日なのに、雨。私が年に1回あるかないかの勇気を出す日なのに、雨。でもそのお陰で傘が間に一定の距離を保つ。近いより、言いやすい。
「あ、えっと…………きょ、今日雨だね!」
ちがう!ちがうでしょ私!
裏返った声も伴って恥ずかしさを倍増させる。変な間で意味がわからない話題を出したのにも関わらず孝支くんは傘の先の雨粒を見て柔らかく笑った。
「そうだなー。やっと梅雨っぽくなってきたって感じ。花は雨好き?」
「す、好き!」
「俺も好き」
「……」
「…花?」
「あ、あのね、孝支くん!」
足を止めた私を心配して振り返った孝支くんと目が合う。こくりと喉が鳴った。小さく吸った息が肺に入る感じがする。
言わなきゃ。ううん、言いたい。
「えっと…」
孝支くんの笑顔を見ると、いつもきゅんとするの。元気をもらえるの。勇気が出るの。恥ずかしいけど、そういうの苦手だけど、私も何かしたいって思うんだよ。
「…生まれてきてくれてありがとう!孝支くんの隣にいられてすごく幸せです。あと…その、大、好きです」
今の言葉に嘘偽りはないけど、やっぱり恥ずかしい。でも今日は特別な日だから!うん!
そう言い聞かせてうるさい心臓を落ち着かせる。
「…花からそんな言葉が聞けるなんて驚いた」
孝支くんは本当に驚いた顔をして私の方に戻ってきた。離れた距離がまた縮まる。きっとさっきより近くて、そのせいで傘が重なって孝支くんの肩に水滴が垂れた。
「今日は…特別な日だから、孝支くんの…だから頑張った……ってそれより肩濡れちゃってるよ!」
「大丈夫だよ」
「だ、大丈夫じゃないよ!」
孝支くん、と続くはずだった口が一瞬、本当に一瞬、封じられた。離れていく孝支くんとの距離と比例するように顔の温度が上がっていく。
「こ、孝支くん!」
「あーほら、今日は特別な日だからさ」
意地悪く、なのに優しく笑う孝支くんがますます私の鼓動を速めて、雨粒の音がかき消されそうだった。
レインポップデイ
(特別な日の勇気は特別だった)