「しょ、翔陽くん!」
「翔陽くん、あのね、」
「翔陽くんは、」
最近、ちょっと変だと自分でも思う。あの時以来、鈴木が名前を呼んでくれるようになって、その度になんか知らないけどどきどきするんだ。
「…い」
名前呼ばれるだけでこんなになるなんて明らか変だからおれ…!なんでだろ、こんなこと今までなかっ
「おい!ボゲ日向!!!」
「う、お!?」
「練習中ボヤけてる暇あんのかお前!!」
ふと顔を上げれば目の前に影山の顔の、ドアップ。
…かなりお怒りの様子の。
で、下にはホワイトボードがあってそこに書かれた何本もの矢印にはっとなる。
そうだ。さっき新しい攻撃パターンを試すからって影山に言われて、体育館の隅に座り込んで打ち合わせをしてて…
「わ、悪い!」
「ったく!いっつもボケッとしやがって!今の!聞いてなかったとは言わせねえからな!」
そう言うと影山は立ち上がり、ボール籠をがらがらと引いてコートに向かう。
おれも急いで立ち上がり、その後を追おうとした時だった。
「やべ!!日向避けろ!!!」
「へ?………っぶほ!!!」
「日向ああああ!!!」
いきなり横から飛んできたボールが思いきり顔面に入って一瞬気が遠くなる。そしてそのまま倒れこんだ。
「大丈夫か!日向!!」
「中心捉えきれてないくせに無理矢理打つから…!」
「すんませんスガさん!!」
「いや、俺より日向に謝った方がいいと思う」
「そうだ!すまん日向!」
ふわふわとした意識の中ぼんやりと映るのは、田中さんと菅原さん…
ぐっと力を入れて体を起こす。
「だ、いじょーぶです…!」
「ウソこけ。お前血出てんぞ」
先輩はしゃがみこんで心配してくれてるってのに立ちっぱなしで相変わらずでかい態度を見せながら指摘する影山にいらっとする。いや、すげー心配しろとは言ってねえけど!!
「うわほんとだ。口切れてるわ。今日清水いないんだよなー…まあ大丈夫だとは思うけど、日向、一応保健室行ってこい」
「は、い!」
血の味を感じ、顔をしかめていると田中さんがテッシュの束を持ってきてくれた。それを口の横にあてながら体育館を後にする。
「…おお。止まった」
菅原さんの言うとおりだ。ティッシュもそんなに汚さないうち、血は止まった。
相変わらず血の味はするけど。
「……………翔陽くん?」
下を向きながら保健室に向かっていたら聞き覚えがある声がおれの名前を呼ぶ。それに反射的に顔を上げると、途端、声の主……鈴木の顔が曇る。
「ど、どうしたの!?」
鈴木は、心配そうにぱたぱたと駆け寄ってくると、そのままの流れですっとおれの頬に触れ……触れ!?
「血は止まってるみたいだけど、ちょっと痣になってる…これから保健室行くところ?……翔陽くん?」
「へ?あ、えっと…!」
触れた手が柔らかくて、少しひんやりとしていて、女の子の手(しかも鈴木の)だと意識し出すと、もう収集がつかない。しどろもどろに視線を逸らせば、途端離れる鈴木の手。
「ご、ごめんなさい、わたし…!」
引っ込めた手をそのまま自分の赤くなった頬に当てて俯く姿は、その、なんていうか、可愛………って何考えてんだ!!
その後シンとしてしまった空気をどうにかしようと言葉を模索するも結局何も見つからなくて、あーとかうーとか中途半端に口を動かすしかなかった。
するとそれに耐えきれなくなったのか鈴木が口を開く。
「あ、えっと、翔陽くん早く保健室行った方がいいね!わたしも用事の途中だから…!」
「あ、そっか!ありがとう!」
「…わたしお礼言われることしてないよ?」
「けど、心配してもらって嬉しかったから!だからありがとうで合ってる!」
「…うん!お大事にしてね翔陽くん」
じゃあまた明日、とそのままおれの横を通りすぎていく鈴木。
頬にまだ感触が残っている。
「ありがとう」で合ってる。だってこの気持ちを表す言葉はそれしか知らない。
合ってる、はずなのに。
ふつふつと込み上がる。
これは、たぶん。
その勢いのまま後ろを振り返って、叫んだ。
「ありがとう!花!!」
俺の声に驚いたように肩を跳ねさせて、そしてすぐに彼女はこちらを向いた。
頬を染めつつも本当に本当に嬉しそうな笑顔で。
瞬間心臓が音を立てる。
それは綺麗で可愛くて、だけどそんな言葉は思い浮かばなくて。
ただ純粋に、俺は花が好きなんだってそう思ったんだ。
わんもあ1回目!
(おれにも君への1回目をください!)