「……随分機嫌良さそうね」
「へ!?そ、そんなこと…!」
いや、明らかにやにやしてるから。そう言いながら花の隣に座ると、#咲智#ははっと真剣な表情になり、私に向き直った。
体育館の出入口。テニスコートに近いそこの段差は私たちテニス部のちょっとした休憩スペースになっていた。日も当たりにくいから特に女子生徒には大好評の場所で、私も例に漏れずよく活用している。
でも今日は先客がいた。鈴木花。私の友達。
先に休憩に入っていた彼女は、そこに座りながら不自然なほどに頬を緩ませていたのだ。
これは理由を聞かずにはいられないだろう。
「な、なに急に真顔になって」
「あ、あのねりぃちゃん。私りぃちゃんに言わなきゃいけないことがあって…」
その目にはまだ少し迷いがあって、どんな重大な話を持ち込まれるのかとどきどきして待つ。
「私、飛雄と仲直りしたの」
「へ?飛雄って影山飛雄?」
「私中学のときりぃちゃんと飛雄の仲取り持つって言って、それから距離とってたんだけど、やっぱり私…」
「ちょ、ちょっと待って花!」
次から次へと飛び出す花の言葉を中断させる。
不思議そうに私を見る花を見つめ返すこと数秒。
「な、なんの話?」
「え?だ、だってりぃちゃん私に協力してって…」
中学のとき、中学のとき…………………あ。
「あの、花が影山のお弁当持ってきた日…?」
「そ、そう!」
「あー…」
思い出した。あの日も花は嬉しそうな顔で教室に入ってきたんだ。これ、飛雄に持っていくんだとかなんとか言いながら。その顔があまりに嬉しそうで、まさに恋する乙女の顔だった。
そこで私は思ったんだ。どうにかして2人をくっ付けようって。だけど、明らかにどっちも鈍感。そしたら私が頑張るしかないじゃないか。
私の中での作戦はこうだった。
1、私が影山を好きだという
2、鈍感な花は協力するという
3、協力しているうちに、私に影山を渡したくないってなる
4、あれ、この気持ちは恋?
5、私飛雄のこと…!
で、ハッピーエンド。
その演出のために私は探りを入れた。確かそこで2人が幼馴染みってことも知ったんだっけ。よく覚えてないけど確か好きな食べ物はーとかそれらしいことも聞いた気がする。
この作戦を実行するには影山も#咲智#を好きなことが前提になっていたけど、そこらへんは問題なかった。
だけど。
「……ごめん花」
「え?」
「あれ、嘘」
「え、え!?う、嘘!?」
私は作戦1を決行した時点で役目は終わったと思い、今の今まですっかり忘れてたんだ。
本当ごめん花。
「…そっか…嘘なんだ…」
「なんだか思ったより深刻になっちゃったのね…」
「深刻…?」
「ううん、なんでもない。ごめんねほんと」
「大丈夫だけど…りぃちゃんそれが嘘ってことないよね…?」
「ああ、それはないない。それにしても…仲直りできたんだね」
「う、うん」
途端ふ、と緩む花の頬。
ちょっと待って。これ、結果オーライってやつじゃないか?
となれば突っ込むしかないでしょう!
「花」
「ん?」
「もし、今誰かに影山との仲を取り持ってって言われたらどうする?」
「え…?」
明らかに泳ぐ花の目。
もう一押し…!
「素直な気持ち聞かせて」
「えっと、私は…」
「うん」
「………協力できないと思う」
「なんで?」
「な、なんでって…」
困ったように眉をよせ、唇をぐっと結ぶ花を見ているとなんだか苛めているような気になる。可愛い我が子を崖から突き落とさなきゃいけないライオンの気持ちとでもいうのだろうか。
「い、イヤだから…もう私飛雄と喧嘩したくない…」
「…ねえ、花。それって…」
「花」
ちょっと誰!今良いところ!
後ろから掛けられた声に怒りつつ振り向けば、そこには話題の中心人物。
「ととと飛雄!」
「…影山、アンタタイミングがいいんだか悪いんだかわからないわね」
「あ?」
「で、何の用」
「用はねぇけどそこ邪魔」
割りと端に座っていたはずだけど、通行の邪魔になっていたらしい。眉間にシワを寄せ、そう言う影山にそういう言い方ないのにとぶつぶつ言いながらも私は立ち上がった。その横では弾かれたように立ち上がる花。
「ご、ごめんね、飛雄」
「…部活は、」
「あ、今休憩」
背の高い影山と目を合わせ会話をする花はなんとも健気で、見ていて嫉妬すら覚える。本当になんでこんな奴がいいかわからない。でもまあ、
「…またぶっ倒れんなよ」
「う、うん!」
軽く頭を叩かれ、それでも嬉しそうに笑う花を見て今度こそ見守ろうと強く思った。
あの日のはなし
(ほら、あんなに嬉しそう)