確実に彼は不機嫌である。
日誌に向かうその顔からはそんな感情は微塵も感じないけれど、私にはわかる。普段ここまで口を閉ざすことはないし、それに、私には徹が不機嫌である理由に心当たりがあるからだ。


「…まだ言わない気?」


顔を上げずに徹が言った。
本当なんてタイミングが悪い。なぜよりにもよって日直が被るんだ。今さら考えてもしょうがないそれに八つ当たりをしてみる。くそう、日直め。


「だから、何もないってば」


言っておくが私だって怒っている。ここまで無言の圧力をかけられ、それでも何もないと言っているんだから信じてほしい。ただ、正面切ってそれを表に出せないのは怒ったところで何一ついいことがないからだ。
プレゼント選びというものは非常に難しい。ネットとか雑誌ではお勧め商品が載っているし、ドラマなんかだと「君がくれるものならなんでも嬉しいよ」とかなんとか言っているがあんなのは嘘だ。じゃあお前は彼女が狸の置物をプレゼントしても喜んで飾るのかと言いたくなる。まあ今はそんな呆けたドラマの話は置いておこう。そんなわけで少しでも役に立つものをあげたいと思うのが正直なところで、そうしたら身辺調査から入るのが妥当だろう。そう思ったからバレー部員の中でも特に徹が贔屓している岩ちゃんに詰め寄ったのだ。
それで、こんな状態にまで発展してしまったわけなのだが。
やはりこれはあまりいい状況ではない、とは私も思う。けれど、彼氏の欲しいものをかぎまわってました、なんて恥ずかしすぎて言えるわけがない。


「徹はなんでそこまでして知りたいわけ?」
「いくら俺でもあんなに近距離で話してるのみたら何があったか知りたくなるって」
「だからあれは勢い余っただけで…」
「俺はその内容を聞いてるんだけど」


う、と詰まったのはこれで何度めだろうか。さっきからお互いに譲らない水面下の戦いを繰り広げているがもうそろそろ埒があかない。時計を見ればアップに差し掛かる辺りでこのまま部活に向かうことになればさらに長引くのは目に見えている。部活で汗を流してついでにわだかまりも、なんてこの男が許すはずがないのはわかっている。それに徹の誕生日は明日だ。このままでは気分も良くない。ああどうしよう。


「…そろそろ機嫌直さない?」
「花が話してくれたらね」
「うう…」
「そこまで言いたくないんだ」
「…言いたくない」
「俺がもう手繋がないって言っても?」
「………」
「キスしないって言っても?」
「………」
「…別れる、って言っても?」


そんな言葉が出てくると思わなくて思わず顔を上げた。私はただ徹の欲しいものを知りたかっただけなのに。徹に喜んで欲しかっただけなのに。どうしてこうなってしまったんだろう。
すべてがうまくいかなくて泣いてしまいそうになる。ただ、ここで泣いても徹を困惑させるだけだ。歪む景色をどうにか戻そうと堪えていると、急に吹き出す目の前の男。


「っはは、ごめんごめん、嘘。ちょっとやり過ぎた。こんなに花が言わないとは思わなくてさ。ごめんね」


途端頭をふわりと撫でられる。なんで徹が急に笑いだしたのか全く理解できない。


「さっき岩ちゃんを問いただしたら教えてくれたんだよね。お前の欲しいもの知りたいんだとさって。欲しいものだったら喜んでもらえるとも言ってたなって。でも俺としてはそういうのは直接聞きたかったなあって思ったから、一つ芝居を打ちました。ごめんなさい」


深々と頭を下げる徹に私は瞬きを繰り返すしかない。え、なに、ということは私が秘密にしていることを徹は既に知っていて、それにも関わらず私に口を割らせようとしていた、と…


「さ、最低!徹のばか!」
「花は恥ずかしがって言わないかなとは思ってたんだけどさー。もし顔を赤くして言ってくれちゃったりしたら嬉しいでしょ?」
「なにそれ変態!そのためにあんなこと、言うなんて…本当、最低…」
「ごめんね?」


なぜか嬉しそうにそう言って徹は再び私の頭を撫でた。そして、俺は#名前#ちゃんがくれるものならなんでも嬉しいよ、と呆けたドラマと同じ台詞を吐いて私に触れるだけのキスをした。






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