「勘違いだと思うんだよね…」


ガシャリ、ホチキスが音を立てた。
はい?顔を上げてぱちぱちを瞬きをしながら研磨を見た。相変わらず彼は俯いたまま次のプリントに手を伸ばしていた。
誰もいない教室。
本来ならばもうとっくに帰っている時間だが運の悪いことに担任に捕まり、資料作成を手伝わされることになった。それもこれも研磨のせいで、彼がなかなか部活に向かおうとしないから…クロくんが迎えにきてくれたというのにいつも以上に動きの遅い彼に溜息一つ、それから「花、研磨連れてこいよ」と仰られたのだ。私はバレー部とはこれっぽちも関係ない人間だが、研磨とはそこそこ関係のある人間である。関係あるかないかはちょっと怪しいか。私の一方的なベクトルかもしれない。
黙々とやっていた作業の合間、研磨の放ったその一言は私が理解するのには少々、いやかなり難しかった。けれど私が何も言わずにいればこのまま会話は終了してしまうだろう。研磨はもともとあまり口数が多い方ではなくて、自分で考えて納得して完結してしまうことが多い。ごくたまにクロくんや私には思ったことや指摘もぽつりぽつりとしてくれるがそれでもやはり難解なのだ。(ただ、研磨に気持ちを吐露してもらえるくらいには思ってもらえてるという事実はとてつもなくうれしい)


「勘違いって?研磨が?」
「…花が」
「んー?そうかな、」


一体何が勘違いなんだかこれっぽちもわからないが、あまり詰め寄ると話してくれないことは明白だ。私は返事をしながらプリントに手を伸ばした。


「…………」


おっと?もしや返答に失敗したか…?
再び黙りこくってしまった研磨をちらりと見れば、やはり俯いて視線を泳がせていた。
さてどうしたものかとガチリ、ホチキスでプリントを止めながら考える。研磨が頭で解決してしまうくらいの勘違いだったのだのだろうか。だとしたらいいのだけど、もし一人で解決できないような問題なら力を貸したい。


「…花が、俺を好きだって言ったの、勘違いだと思う」


おお、話し始めたと思ったら彼の口から出てきたのはそんな言葉で。私は先程同様、未だ視線を泳がせる研磨を見ながら瞬きを繰り返す。そんなことを考えていたのかという驚きと、口に出してくれたことの喜びで頭が追い付かない。言っておくが、勘違いなどではないのだ決して。好きだよと言った時にもかなり怪訝そうな顔をされたけど、私は間違いなく研磨が好きなのだ。


「勘違いじゃないよ、研磨」
「……だって俺いいとこないし、クロのがかっこいいし、」


なぜそこにクロくんが出てくるのかわからないが、もしかしたら研磨の中でクロくんはかっこいいに分類されているのかもしれない。確かにコートの中を走り回るクロくんはかっこいいと思うけれど、私に言わせれば研磨だってかなり。むしろ研磨の方が。


「っ研磨はわかってないよ!」


私の声に跳ねられたように顔を上げる研磨を見て、さらに言葉を続ける。


「研磨は周りをよく見てるし、さりげなくフォローしてくれるし、それで私何度も助けられたんだよ。コートでかっこいいのはクロくんかもしれないけど、私が綺麗だって、ずっと見ていたいって思うのは研磨だもん!」
「…花うるさい」
「だって研磨が!」
「わ、わかったから」


ずっと研磨を見て話していたはずなのに気づくと彼はもっと下を向いていて、その顔が少し赤くて、思わず笑みがこぼれる。やっぱり私が好きなのは、無口で他人とコミュニケーションを図るのが苦手で観察眼に長けていて、優しい、あなたです。


「大好き、研磨」


この片思いが実る実らないは関係ない。そりゃ実ったら舞い上がるのは目に見えているけれど、今はこの思いを伝えられるだけで十分なのだ。とりあえず今日は私の気持ちが勘違いでないとわかってもらえただけで、進歩!





サイレント融ける
(大変研磨!部活!!)
(今日は部活いいんじゃない…?)
(だめだよ!クロくんにどやされるー!行こう!)
(花…手…!)
(こうでもしないと研磨動かないじゃない!急げー!!)