「…あれ」


黒板の日付を変えようとして思わず手を止めた。
明日からもう12月。
といえば人によって好き嫌いが分かれる行事がある。
まあ、毎年のことながら私には全くの無関係だけど。
今年は友達とパーティーでも開こうかなんて思いながら11と30、二つの数字を消そうと黒板消しを持ったところで今度は違うことに気付く。

…ああ、どうりで朝からうるさかったわけだ。
昨日夜遅くまで宿題という悪の手下に追われていた私は寝不足でそこまで頭が回らなかったけど、今日は11月最後の日。この学校にとって…というかこの学校の女の子たちにとって待ちに待ったイベントの日だ。

モテる奴の誕生日は盛大だなあと微かに口角を上げ、窓の外を見る。そこには部活に勤しんでいるサッカー部員たちがいた。その中でも一際注目を浴びるのは桜上水サッカー部キャプテン、水野竜也。サッカーに関してはあの武蔵森からスカウトが来るほどの注目株で、容姿も端麗。加えて勉強も出来る…とまあどこかの漫画から出演依頼が来そうなパーフェクトボーイ。
そんな水野と私は自慢するような関係でもなく、ただのクラスメートなわけだけど、前に一度だけ隣の席になったとき妙に意気投合するところがあった。
だからってどうこう言う話ではないのだが、それ以来なんだか少し親しい位置にいるような気がする。
しばらくの間練習風景を眺めてから私は帰り支度を始めた。
どうやら外の部員たちもクールダウンに入ったらしい。





だからまさか廊下に出た途端今日の主役に会うなんて思ってもみなかった。




「「…あ」」


思わず漏れた声がぴったりと重なる。
どうやら向こうも予想外の出来事だったらしい。
何事もなかったように通り過ぎればよかったのだがバッティングした視線と声のせいでそれも叶わぬものとなってしまった。ただ、このまま何も言わずに去るわけにはいかない(仮にも同級生だ)
私は一呼吸置いた後口を開いた。


「部活お疲れ様。みんな頑張ってるね」
「ああ。冬場は体力作りを徹底しないとならないからな。…鈴木今日日直だったのか」
「あ、うん。まあね。でももう帰るとこ。水野は?」
「練習のメニュー表取りに来たんだよ。明日使うやつ。それ取ったら帰る」
「そっか……あ。今日水野誕生日だよね。言葉だけだけど…おめでとうございます」


そう言って冗談に頭を深々と下げた。
きっちりと3秒数え視線を戻すと水野は一瞬驚いたような表情を見せた後ふいと顔を背けた。


「あれ、水野?」
「……」
「照れ、てる?」
「……」
「あ、えっと、み…」
「鈴木」


とりあえずこの空気をどうにかしようと呼ぼうとした苗字はその本人によって遮られた。


「は、はい!」
「…一緒に帰らないか」


早口に紡がれた台詞と赤い顔が驚くくらい私の鼓動を急かして。
段々と熱で赤くなる頬を私は気付かれないように手で押さながら小さく頷いた。











日付を変える手をとめて
(水野も青春してんのねー)
(小島さん!のぞき見はよくないんじゃ…!)