夏は、
きらいだ




それは暑いからだとか
肌が焼けるからだとか
そういうんじゃなくて




ああ、どうしてこの季節はこんなにも









「…一馬はさ」
「……」


キィと椅子が回り、一馬が私と向き合う形になる。
彼は返事はしなかったけど、次の言葉を待つかのようにじっと私を見ていた。


「一馬は変わったよね」
「そうか?」
「うん」


変わったよ、と私はさっきのセリフを反復する。
今では見上げるほどになってしまった背も、骨張った手も、鋭くなった目だって。
今と昔は違うのだと、私に知らしめてくる。
わかってる。それらを見て、どんどん成長していく一馬を見て寂寥を感じるほど私は幼くない。
そうじゃないんだ。
私の心の内にあるのは。


「一馬」
「なんだよ」
「………やっぱりなんでもない」


私は、この関係が壊れるのがこわい。
一馬に好きな人ができて、いつか幼なじみという曖昧な関係が崩れてしまうのではないかとふと考えてしまうときがあるんだ。





離れたくないと
わがままな願いを口にしたら、あなたはどういう反応をするだろう
言ったら何か変わるだろうか
その後はいい方向に向かうだろうか
それとも悪い方向に向かうだろうか





「一馬、」
「だから、何なんだよ」
「……私を置いていかないで」









けれど、そんなことをゆっくりと考える暇もなく時間は過ぎていって
それなのにこの気持ちはずっと消えない気がして
古い風船が何の前触れもなく割れるように、突然言葉は漏れた。



「置いて、いかないで」



夏は、
きらいだ



「離れたく、ない」



人をこんなにも感情的にする
暑さで判断を鈍らせる



「…ごめんな、花」
「…っ」
「ごめん」




抱きしめられた腕の中で
何を表すのかわからない謝罪の言葉を聞きながら
私はただただ涙を流した









熱が言葉を紡ぐとき
(あなたは応えてくれますか)