「…眠い」
「は?」
「ちょっと寝るね」
「………」


返す言葉が見つからなかった。
呆気にとられて見ている僕を眠気眼で見つめたかと思えば、何秒もしない内に花はフローリングに倒れ込んだ。
さっきまで(花のおかげで)うるさかった僕の部屋は一瞬にして静寂へと変わる。
机上に並べられた教科書やノート。
倒さないようにと机の真ん中あたりに置かれた二つのコップ。
シャーペン、消しゴム。
何の音もたてずに、ただ置かれているだけのそれらが静かさを一層引き立てる。

確か、僕の記憶が正しければ今日は勉強会だったはず。
化学がわからないと泣き付いてきたのは向こうであって。
それなのに何故その張本人である彼女は気持ち良さそうに寝息をたてているのだろうか。
腹が立つ、とまではいかないが少し気にくわないのは事実。
というかいくら幼なじみだからといっても仮にも男と女なわけで。



けれど、それだけではおさまらず、こいつは僕の思い人でもあって。



(…まったく何を考えているんだか)

無防備に自分の向かい側で横たわる彼女を見てため息をひとつ。
こんな所で警戒心の欠片も見せずに寝てしまうのはたぶん異性として意識されていないということ。
悲しく…はない。
ただ、ため息が最近頻繁にでるのはきっと大半は呆れで、そして残った小さな狭い部分は諦め。
らしくないとは思いながらも彼女を見ているとどうしてもそう思わずにはいられなくなってしまう。


「…ほら。テストまで時間ないんだからさっさとやるよ」
「んー…翼のケチ…」




このまま微妙な関係を続けるべきか。




「僕は忙しいんだよ。やらないなら早く帰ってほしいんだけど」




けれどやっぱり、




「…あ、じゃあ翼も一緒に寝よ?」







(幼なじみも楽じゃない)




幼なじみ関係