「シゲちゃーんチョコあげるー!」
「お、ありがとうな!」
「私もー!義理だけどね!」
「うわ、そこは語尾にハート付きで、本命だよって言うとこやろ」


いらいらする。間違いなく今の私は悪人面をしているだろう。いや、べつにシゲが誰かから何を貰おうと私の知ったこっちゃない………と言いたいところだが、やはり自分の心には嘘はつけないらしい。いわゆる嫉妬だ。
嫉妬する女はかっこ悪いとかなんとかそんなの知ったこっちゃない。


あーもう!なんなの!




授業中も休み時間もお昼のときもざわざわする気持ちと戦い続けて、ふと気付けば放課後になっていた。まだちらほら人は残っているけれどほとんどの生徒はもういない。いつも一緒に帰っている友達も他校に通う彼氏に会うためそそくさと教室を出ていった。

しかたない。今日はひとりで帰るか。
そう思い腰を上げた私の前にゆらり現れた人物。


「………シゲ」
「おう、花!今日はひとりで帰るん?俺も部活ないし、一緒に…「いえ結構!シゲもひとりなら今日チョコくれた女の子とでも帰れば?」


突っ放した言い方にはなったと思うけど言い過ぎたとは思わない。
私は机の片側にかけてあった小さな紙袋を鞄の中に押し込んでシゲを思いきり睨みつけた。


「早く帰れ!」
「ほんま、可愛い姫さんやなあ」
「はあ?………ってちょっ…!」


怒気を表に出した私の言葉にけらけらと笑ったシゲは私の鞄から先程突っ込んだ紙袋を取り出した。そして一言。


「これ、俺にくれるんやろ?」


その言葉に一気に頭に血が昇ったのが自分でもわかった。
ついでに鼻までツンとしてくる。たまったもんじゃない。


「そうだよ!昨日一生懸命シゲのために作ったの!なのにへらへらへらへら笑いながら他の子からもチョコ受け取ってるし、しかも数は尋常じゃないし!最初はべつにいいやって思ってたけど、でもやっぱりイヤだったんだもん!だって私シゲの彼女だし、私のこと1番に見て欲しいって思うよ!シゲが好きだか…っ…!」


最後は言葉にならなかった。せき止めていた感情が溢れ出したのとシゲに抱きしめられたのと。次から次へと流れ出ていた言葉が急に遮られ、そのおかげで訪れた静寂にはっと我に返る。


「し、シゲ何やって…!っていうか、ここ教室…!」
「あまりにも心をぐーっと掴むようなこと言うもんやからここはやっぱり男として抱きしめないとかんと。もう誰もおらんし、ええやん」
「よ、くない!私怒ってるんだけど!」
「いやーまさかここまで妬いてくれると思ってなかったわ。最近愛情が薄いなあって感じとったけど俺めっちゃ愛されてたんやなあ」
「うるさいうるさい!」
「もう何言うても無駄やで。しーっかり聞かせてもらいました。あ、そや。あれ録音したいからもういっぺん頼む!えーと、なんやったっけ……私シゲを愛して「そ、そんなこと言ってない!」
「あれ、そやったっけ。まあ、それはおいおい思い出すとして…とりあえず帰るかー」


そう言って手を出すシゲになんだか悔しく思いながらも自分の手を重ねた。










よそ見なんかしないで!
(…チョコの味見はしたんやろ?)
(してないけど。変なもの入ってないし…入ってても塩辛とマスタードぐらいだよ)
(え…)