あ、俺恋してる。
そんなことを思いはじめたのはいつだったか。
気づいたら好きで、いつも一緒にいたいって思うようになって。

それが叶わないなんてこれっぽっちも思わなかった。
…いや、今も思ってないけど。






「好きなんです」
「うん。ありがとう」
「本気なんすよ」
「私も若菜くんのこと好きだよ」


俺の目の前で赤ペンを握る彼女はひどく単調な言葉を並べた。
前に誰からか『恋愛に歳の差なんて関係ない』と聞いたことがあって、俺だってそうなんだと思っていたけど最近になって、みんながみんな例に沿わないのだということを知った。
だってほら、彼女は先生と生徒という今の関係を保とうとしてる。


「花せんせーはさあ、」
「何?」
「…どうしたら俺のことちゃんと見てくれんの?」
「見てるよ。テストの点数がこないだより上がったこととか」
「そうじゃなくて!恋愛対象として!」
「……若菜くんが大人になって会社に勤めるようになったら、かな」


そう言う間も彼女は手を止めない。
…なんでだよ。歳の差って言ったってそんなに離れてるわけじゃない。
しかも会社とか言ってそんなん無理だ。
俺の夢はサッカー選手なのに。
いつもいつもうまくはぐらかされて、結局はどうすることも出来ずにまた一日が終わる。


ありえない。
俺の恋がまさか歳と立場に左右されるなんて。
つーか、俺だって同級生とか先輩とか後輩とか、そういう人を好きになると思ってた。
逆にそうだったらよかったのに。
そうしたらこんなにもどかしい思いをせずに済んだかもしれないのに。



「…花先生」
「ん?」
「…俺、諦め悪いんで!これから毎日でも告白しますから、ちゃんと聞いてくださいね!」


精一杯の思いを込めた俺の言葉にも彼女はただ曖昧に微笑しただけだった。




























「…なんだこれ、痛いなんてもんじゃないって」


教室を出た後、不覚にも頬を伝ったのは冷たい氷のような雫だった。








冷たい雫、恋心
(こんな感情持つんじゃなかった)