「………っ!」
額からじわりじわりと吹き出る汗。
少し火照った体。
上がっている息。
嫌な夢を見た
もやもやとしていて所々しか思い出せないが、ただ鮮明に覚えているのはゴール前で膝を抱えてうずくまる渋沢の姿
これは夢。
わかってる。
でも霧がかった夢の中でその光景だけははっきりと、まるで映画館のスクリーンに映し出されたかのように私の目の前に広がった。
(何考えてんだ、私)
散歩でもして頭を冷やそうと私はジャージに着替え、部屋を出た。
しばらく寮の周りを歩いていたがはたとグラウンドの前で私の足は止まった。
誰かが走っているのが目についたからだ。
最初は陸上部かと思ったが朝のグラウンドはサッカー部がほとんど使っているし、ましてやこの時間(ただ今AM4:30)(ごろだと思われる)
一体誰が…?
その疑問は次の瞬間見事に消え去っていた。
夢の中で見た
あれは渋沢だ―
「渋沢…!」
「…ああ、なんだ鈴木か。どうしたんだ?こんな朝早く」
「や、えっと…」
走っているのが渋沢だと分かり思わず駆け寄ったものの、その人から浴びせられた問いに口ごもってしまった。
「ちょっと変な夢見ちゃって。渋沢こそいつもこんなに早いの?」
「いや、今日は特別だよ。いつもなら起きるのはちょうど今ごろだな」
「でも私よりかなり早いよ」
そう言って私は苦笑する。
「ね、渋沢。今年も頑張ろうね」
暑い夏がやってくる。
去年と同じようでまったく違う、それぞれの思いが交差する季節。
地区大会、県大会、そして全国大会。
きっとたくさんの学校がたくさんの練習を積んで、たくさんの思いを秘めて挑んでくる。
けれど私たちだって負けるわけにはいかない。
「ああ」
耳に渋沢の短い返事が届く。それは一秒ほどのものだったけれど、十分すぎるくらい重いものだった。
グラウンドの夢
(さっきまで私を支配していた夢はいつのまにか消えていた)