わしゃわしゃ
「………」
わしゃわしゃ
「…なんかさ」
「何よ」
「花、犬みてえ」
「はい?」
私より少しばかり高い位置からけらけらと笑い声が響いた。
人から無理矢理タオルを奪っておいて言う台詞ではないだろうと思ったけれど、傍から見た私はその例えそのものの気がして悔しさを残したまま渋々口を閉じた。
タオル越しに伝わってくる大きくて暖かい掌の感触。
時々水滴が飛び散って顔を濡らすのだが、それがどうしてか心地よい。
何度かゆっくりと瞬きを繰り返してそのまま目をつむった。
瞼の裏に浮かぶ微かな光と私の後ろに座る彼の姿。
口元は僅かな弧を描いており、細められた瞳は愛しいものを見る目だった。
それらはただの想像に過ぎないけれど、その姿は普段の彼から容易に予想出来たし、またそうであってほしいという願いも込められていた。
なんて、恥ずかしすぎてとても言えたものじゃないが時折そんな感情が心の奥底から沸き起こる。
私の傍らで優しい眼差しを向けていてほしいと、そう思わずにはいられない時があるのだ。
「よーし、終わり」
目を開けると同時やけに明るい声が聞こえ、半分寝に入っていた私を連れ戻した。
目を擦りながらありがとうと呟くと、どーいたしましてとまた明朗な声。
そしてそのまま彼の腕に包まれた。
「花、寝てた?」
「…ん」
「すげー眠そう」
「…ん、もう寝る」
「運ぶ?」
「…大丈夫、歩く」
私がそこまで言って立ち上がろうと足に力を込めると、結構力の入っていた腕はすんなりと解かれた。
「じゃあ、おやすみなさい」
「ちょっと待った」
「…え?」
予想外に引っ張られた手にバランスを崩し、気付くとまた彼の腕の中。
「…なに?」
よく目にする悪戯好きな子供のような表情が私より少し上の位置にあった。
それが真剣なものへと変わり、距離を縮める。
「寝る前に、」
おやすみのキスをして
(幸せな夢が見れるように)