空が青い。
私の頭上に広がるその青の中を雲がゆったりと流れていく。
雲はまだ発展途上で、自分が大きくなれる夏本番を今か今かと待ちわびているかのように見えた。
深く息を吸う。
夏と砂埃の臭いが混ざり合って私の中に届いた。






昨日行われた夏の地区トーナメント決勝戦。
今日と同じくらい爽やかな夏空の下で、私たちは負けた。
勝負は最後までわからないとはよく言ったもので、審判がホイッスルを吹く直前…本当に試合終了間際、ボールはゴールラインを割った。
桜上水の逆転ゴール。
いつまでも喜ぶ桜上水のメンバーに翼は一喝し、礼をすると私からやや乱暴にボトルを受け取った。
その後パイプ椅子に腰掛けた彼に柾輝がタオルを持っていったみたいだけど、それからのことはわからない。
声をかけたのか、それともただ持っていっただけなのか。
どちらにしろ、翼には何か…柾輝の気遣いみたいなものが伝わったんだと思う。

私は、何も言えなかった。
なんて声をかけたらいいか、見当もつかなかった。
頑張ったよ、運がなかっただけ、次があるじゃない。
それらの言葉は憐れみのものでしかない気がして、私はただただ翼の背中をじっと見つめることしかできなかった。






空気が暑い。
太陽が容赦なく照り付ける。
校庭に陽炎を見ながら私は無意識にため息をついていた。
情けない。
本当に。
マネージャーという選手に一番近いであろう位置にいながら何もできなかった。
悔しい、悔しい、悔しい。






「花、今日部室でミーティングなんだけど」





ふいに後ろから声がした。


「…つ、ばさ」
「まさか暑すぎてボケたなんて言わないよね。この時期に外でぼけっと突っ立ってるとか頭悪い奴のやることだから。何?熱中症にでもなって迷惑かけるつもり?」
「違っ…」
「こんなとこで泣いてる暇あったらとっととデータファイルとってきてくれる?」
「なっ泣いてない!」
「まあ、どっちでもいいけど」


翼はそう言うと、手でぱたぱたと顔を扇ぎながらこっちへ歩いてきた。


「ほら」
「え?…ってちょっ、翼!手!」


急に私の手をぐっと掴み、そのまま翼は校舎へと歩き出した。歩く度に白いワイシャツが微かに揺れて、背中の輪郭を映す。いつもさまざまなものを背負って、支えるそれは今日はいつもより少し、大きくたくましく見えた。



「泣くなよ」
「…だから泣いてないって…」
「次は勝って本戦行くから」



ぽつり、と呟かれた台詞があまりにも力強くて、ああ、下を向いていたのは私だけだったのだと



「……うん」




喉まで出かけた謝罪の言葉を飲み込んで、私は頷いた。
翼の手と背中をぼやけた視界でしっかりと捉えながら。









夏空の下で滲む世界
(肩を並べるために、胸を張るために)
(私も前を向く)