「チョコレート会社の陰謀だわ」


廊下の窓から下を見ながら鈴木はそう言って、ため息をついた。
俺も同様に窓の外に目を向け、ああ、と短く頷いた。
そこには顔を赤くしてチョコを差し出す見知らぬ女生徒の姿。
足の爪先を見つめながら一生懸命に言葉を紡いでいる。(実際にはそう見えただけなのだけれど)
対するその相手は女生徒に気付かれないように小さく息を吐き、それからごめんと口を動かした。


「バカよね。誰も気付かないんだもの。躍らせられてることに」


その一部始終を見終わってから#苗字#は再び怠そうにそう呟き、体を反転させて壁にもたれ掛かった。
俺もそれに続くように同じ体勢をとる。


「中には気付いてる奴もいんじゃねぇの」
「私みたいに?」
「ただきっかけがほしいだけだろ」
「…そうね。じゃあ自ら罠に向かっていって、かかったフリをしてるのかもね」
「ならどっちも別に嫌な思いしないし、むしろ万々歳ってやつだな」


俺がそこまで言い切ると、いつの間にかこっちを横目で見上げていた鈴木はくすくすと笑った。
そして柾輝、と俺の名を呼ぶ。


「本当はね、私もその内の一人なの。バレンタインさんの命日を利用して、自分から罠に向かってるの。チョコレート会社の陰謀に気付いていながらそれにきっかけを求めてる」


それから鈴木は大きく息を吐くと、自分のバッグの中から小さな箱を取り出し、窓枠にうまく乗せた。


「私もバカの一人。気付いてないフリができないから可愛い渡し方じゃないけど、受け取って」


そう言う鈴木の表情はいつもと変わらぬポーカーフェイスで。
雰囲気も何もないそれに思わず苦笑する。


「一応聞くけど、選択肢はあったりするのか?」


ほんの少しでもその顔を変えたくて、わざと意地の悪い質問を投げかける。
すると彼女はふっと笑って


「拒否したいならどうぞ。選択肢を一択にするほど性格悪くないわ」


そう言って口の端を上げた。











陰謀の陰謀
(サンキュ。有り難く受け取っとくわ)