「…遅い」


私はたくさんの料理を前に眉間にしわを寄せた。



今日は最愛の彼氏の誕生日。
私は早々に支度を始め、彼の好きなものばかりを揃えた。
ケーキも料理本を片手に初挑戦してなんとか形になったし、味もばっちりなはずだ。
帰ってきたら驚かせてやろうとクラッカーも準備した。





…なのに。
いくらなんでも遅すぎる。
時計の針は11時を指そうとしていた。
まあ、普段の日ならどうってことはないのだけれど、こういう大切な日に連絡もなしに遅くなられてしまうと正直困る。
毎年のことだから私がこの部屋にいることも、こうやって待っていることも彼は知っているだろう。
なのに、何故遅い。
私は大きなため息をつき、今まで座っていた椅子から腰を上げた。






―と、インターホンが部屋に鳴り響いた。
私は急いで玄関へと向かいドアを開ける。


「結人!遅い…って何それ」


ドアを開けた途端、目に入ってきたのは赤い花束。
それもかなりの大きさの。
結人の意味不明な行動に私が固まっていると、彼はその花束をずいっと私へ差し出した。


「バラの花束です。どうぞ、お姫様」


爽やかに笑いながら恥ずかしいセリフを吐く結人に私はため息をつく。


「なんのギャグなの、それ」
「ギャグじゃねーよ!」
「とりあえず、ご飯食べよ。今日のは自信作なんだから!」
「花、ちょっと待てって」


後ろで結人がそう言ったかと思うと、直後ばっと手首を掴まれる。
いきなりのことに私は驚き、声も出ないまま結人を見つめた。


「真剣な話、してい?」


突如向けられた真っ直ぐな目。
嬉しいような怖いような変な感情がうずまいた。
なんとか声を絞り出して、私は結人に向き直る。


「……うん」


彼の声色や表情からぴりぴりと緊張感が伝わってくる。
長い沈黙が痛い。
重い空気の中で誰も何も言わないことが、こんなにも恐怖なのだと改めて感じさせられる。



「…結人?」


痛みに耐え切れず名前を呼ぶ。
すると結人は、くしゃくしゃと頭を掻き、小さく口を開いた。






「あー…のさ、花」
「ん?」







「…結婚しませんか」
「……え、何、え!?」
「だーかーら!俺とずっと一緒に居てくれませんか!」
「それは…ずいぶんと、いきなりだ、ね」
「驚いただろー」
「…うん。結構…」
「じゃあ旨い料理食いながら返事聞かせてもらおうかな」
「…食事しながら、なんて余裕だね。私が何て返事するかわからないのに」
「んー。ってか断るなんて俺が許さないし?」
「うわ。それありえない。そういうこと言う男は嫌われるよ」
「いーの。俺もうモテる必要ないから」




そう言って暖かく笑うあなたを見て、私は泣きたくなったんだ。







ずっとずっと
(結人、私のこと幸せにしてくれる?)
(んー…)
(何、その返事)
(でも大丈夫!花と一緒だったら俺は幸せになれる自信がある!)
(そっか。私もその自信に負けないよ)