「花姫っ!」
「へっ…?」


まるで叩き起こされたかのようにその一声で目が覚めた。
不思議と頭はしっかりと覚醒していて、かなり気持ちの良い目覚めだ。
私はまだ鳴らないだろう目覚まし時計を止めるべく手をのばした。




ちょっと待て。
時計がない?
その前に、姫?
いきなりした声に驚き、間抜けな声を出してしまったが、私は姫ではない。
それ以前に今の日本に姫などと呼ばれるような人はいただろうか。
否、いない。少なくとも私の知るかぎりでは。




そこで改めて自分の周りを見渡す。
さっきまでは静かだったはずの周囲は一気に騒がしいものに変わっていた。
私の前のテーブルには豪華な料理が並べられていて、グラスもキラキラと輝きを放っていた。
それだけでも驚きだというのに、私は目の前にいる人を見て目を見開いた。


「将…?」


瞬間、隣からまた姫、と呼ぶ声。
膝の上に軽く手を置かれているあたり、やはり私のことなのだろう。


「王子を呼び捨てにするとは何事ですか。いくら親しい仲でも許されることではありませんよ」


なんなんだ、この人は。
頭は混乱しっぱなしだったが、とりあえず謝罪の言葉を口にした。
すると同時に将…王子がにっこりと微笑む。


「気にしないでください。王子と呼ばれるより嬉しいですから」
「それでしたらいいのですが…」


私の隣の人は負けじと綺麗な笑みを浮かべ、すぐに何か思い出したように私に声をかけた。


「少し席をはずしますが、くれぐれも王子に粗相のないようにするのよ」
「…はい」


短い返事。
だってそう答えるしかない。

途端大勢いた人は消え、いつのまにかバルコニーに移動していた。
しかし何故か将は一緒。
夜空にはいくつか星が瞬いていて雲も見当たらなかった。
しばらく空を眺めていたが、その内将が口を開いた。


「…花姫」
「はい?」
「あの、」










「僕と結婚してください」










「……っ」
「……花ちゃん」
「ん…」


頭がボーっとする。
目覚めはよくない。
カーテンの間から零れてくる光が欝陶しく感じた。
それでもどうにかこうにか目を開けるとそこにいたのは。


「…っ将!?」
「うん?もうとっくに部活始まってるよ。早く行こう!」
「…部活…?」
「あ、そうだ。部活終わった後どっか寄ってこうって話になってて…もしよかったら花ちゃんも行こうよ」


醒めきらない頭でそれでもなんとか状況を把握する。
さっきのは、うん。夢で間違いない。
私は制服で、ここは教室。
で、今私は将に部活後の寄り道に誘われているらしい。
大丈夫、理解できた。


「…そうだね。私も参加させてもらおうかな」
「うん!最近みんなで遊びに行くってなかったから楽しみだな」



そう言ってうれしそうに笑う将から思わず視線を逸らした。

さっきのは夢、そう夢だけれど。



太陽みたいな笑顔を、
握られた手を、
小さな背中を、



強く意識してしまうのは



きっと気のせいなんかじゃない





君が奏でる夢