「真琴は私のこと甘やかしすぎだと思うの」
「え?何いきなり」


真琴はそう言って笑いながら空になったコップを下げた。
いきなりじゃないよ、とテーブルに突っ伏しながら言うと、じゃあ前から思ってたんだと彼は特に驚いた様子もなく言った。それと同時にことんと置かれたのは小さなケーキ。
学校帰りにぽつりと甘いものが食べたいと言ったのがそもそもの始まりで、隣を歩いていた真琴が家にあった気がするけど来る?なんていい笑顔で言うもんだからつられずにいられなかったのだ。
目の前に置かれたケーキを目に映しながら、真琴を一瞥すると彼は早く食べな、とフォークを置いた。


「…真琴のばかー」
「食べない?」
「…食べる、」


真琴は昔からこうだ。私の世話役でハルの世話役で、なんというか染み付いた彼の癖みたいなものだと思う。そしてこれは非常に、良くない。


「真琴がそんなんだから、ハルも私もだめになるんだよ」
「ハルも花もだめじゃないよ」
「んー…だからそういうとこだよー…」


ケーキの上に乗った苺を口に含むとその甘さに頬が緩んだ。真琴に甘やかされて、それをわかってるのにいつもつられてしまう私も良くないと思う。私このまま真琴離れできないんじゃないかな。ハルほど世話を焼かれてるとは思わないけど、ハルより甘やかされてる自覚はある。


「もし私がだらだら人間になったら絶対真琴のせい」
「じゃあ厳しくしようか?」


そんな言葉でさえも冗談のように笑いながら言うもんだから、私はぐうの音も出ない。やっぱりいい、と言うと、彼ははいはいと先程淹れてきたコーヒーに口をつけた。
私にとって真琴は安心材みたいなものだと思う。安心するし癒されるし、一緒にいると落ち着く。そして真琴は私のことを見抜く技を持っている。今日だって。
ケーキを食べ終えた私に向かって、元気出た?なんて、とんだ甘やかしだ。こくりと頷くと、真琴はおかしそうに笑って俺がね、と続けた。


「甘やかすのは頑張ってる人だけだよ。頑張りたいと思う人が頑張れなくなった時だけ。花は努力家だから誰かが甘やかしてあげないとね」
「…なにそれ」
「花自覚なさすぎ」


気恥ずかしくなるような言葉を紡ぎながら彼は笑う。優しい言葉で優しい笑顔で私に語りかけないでほしい。そんなんだから私が離れられない、なんて、理不尽なのは承知している。


「私このままだったらどうしよう」
「このままって?」
「このまま真琴から離れられなかったら」
「んー…離れなければいいんじゃない?」


さらりと繋がれた最後のそれに下を向いていた顔を上げる。真琴はそんな私を見て、口開いてるよと眉を下げた笑顔で言った。いや、待て。冷静になれ私。ここで顔を赤くしたらそういう意味にとったと誤解される。


「…真琴の言う頑張ってる人にそういうこと言うと誤解されるよ」
「いくら俺でも全員には言わないよ。もちろんハルにも。花だけにしか言わない」
「…後、そういうの勘違いする」
「いいよ、というかむしろしてください。ずっと一緒にいて、花」


目が線になるほどに優しく笑うこの人の前で、頬を染めるのは見透かされているようで堪える。それも今さら、なのがこれまた悔しい。
それ、プロポーズなんじゃないのなんて軽口を言うにもうまく声が出なくて、私はただその甘い言葉を飲み込むしかなかった。








甘いもの中毒
(甘いものにはほとほと弱い)