「今日の3限なんだっけ」
「英語じゃなかった?」
「あ、そっか」
今日ちょっと寝ちゃってさと少しはにかみながら栄口くんは日誌に『英語』と書き込んでいく。
その字は男子特有のかくばった感じはなく、少し丸くて栄口くんの性格をそっくりそのまま表しているようだった。
優しくてでもしっかりとしたそれに思わず笑みが零れる。
私は部活での彼を知らないけれど、きっと想像通りかそれ以上なのだろう。
特別秀でているわけではないがなんでもそつなくこなし、細かいところでも頼りになる、そんなチームのサポート役。
なかなかに難しいとされる陰の要。
本当にすごいと思う。そういった役割は与えられたからと言ってすぐにできるわけではないし、やろうと思ってもうまくいかないことが多い。
たぶん栄口くんはとても器用な人なのだ。
やんわりとした笑顔の裏に例え努力や葛藤があったとしてもそれを見せない彼は私にとって憧れ以外の何物でもなかった。
「栄口くん今日部活でしょ?あとちょっとだからもう私一人で大丈夫だよ」
「平気平気。連絡してあるし、それにオレが最後まで付き合いたいからさ」
そう言ってへにゃりと笑う栄口くんに思わず赤面する。
ああ、なんてこの人はずるいんだ。
目の前でそんなうれしい言葉を吐かないでほしい。
赤くなった顔を隠すように日誌に視線を落とし、空白の欄を埋めていく。
いつもなら一人一人に書くスペースが設けられた、この学校の特殊な日誌はかなり面倒だと感じるのだが今日は感謝してもしきれないくらいだ。
少しでもこの時間が続けばいいとそんな考えがちらりと頭の隅を過ぎったけれど、それよりも栄口くんを早く部活に行かせてあげたくて急かせかと手を動かせば何分とかからずにその作業は終わった。
「ごめんね、栄口くん。待たせちゃって…」
「いやいや!全然待ってないから。じゃあ届けに行こっか」
「今度は大丈夫!だから部活行って?」
「でも、」
「私ね…」
そこで言葉を止めて、浅く息を吸う。
今なら言える。
ずっと心に閉じ込めていた大きな思い。
「栄口くんの部活やってる姿、好きなんだ」
でもやっぱりまだ少しだけ怖くて、出て来たのはそれっぽっちの小さな台詞。
すごくすごく恥ずかったけれど、
「鈴木、ありがとう」
そう言ってちょっと顔を赤く染める栄口くんを見て舞い上がるほどにうれしくなって、
ひどく胸が熱くなって、
なぜか涙が出そうになった。
自惚れてもいいですか
(あなたがあまりにも優しい瞳を向けるから)