私の幼馴染みはモテる。(もう一人の水泳バカのことは今日は置いておく)おおらかで優しくて癒し系で。そう、モテるのだ。それ自体は悪いことではないと思う。ただ問題なのは私と彼が幼馴染みだということだ。
「真琴は好きな人いないの?」
「な、にいきなり」
「だって!」
放課後、プールサイド。真琴と2人並んで腰掛けながらみんなの到着を待っていた。ばしゃばしゃと足で水を跳ねあげれば割りと遠くまで波紋が広がった。八つ当たりも八つ当たりだけど、私の気持ちもわかってほしい。
ここのところ毎日だ。毎日のように上の学年からも下の学年からもなぜか私のところに来客がある。割合にすると半分強の確率でそれは真琴絡みだ。積み重なっていくラブレター、差し入れ。水泳部が設立され、その部長となった真琴の株は少しずつ上がっていった。(急上昇ではない、というのがなんとも彼らしい。隠れファンがいつの間にか隠れなくなったというところだろうか)そこからなぜか、私が真琴の幼馴染みだという話も広がり、そこからまたなぜか、私に、真琴宛の、贈り物が届くようになった。それをメモした名前とともに真琴に渡すのが最近の私の役割となっている。真琴は「毎回ごめんね。けど、なんで花のとこに届くんだろう」なんて言う始末。そんなの私が聞きたいわ!
きっと彼女らは私を水泳部のマネジャーではなく、真琴のマネジャーだと勘違いしているのだと思う。ただ、受け取ってしまう私も私だけど。恋する乙女のお役に立ちたいという気持ちがそうさせてしまうのだろう。
「だから、真琴に好きな人ができて、付き合うことになれば私のお役も終わるの!」
「また急な話だね…」
「いないの?好きな人」
「好きな人、か」
昔から彼がこういう話に疎いのは知っていた。小学生時代、スイミングクラブに通いづめ。中学生時代、ハルの世話役。そして高校2年め水泳部設立。このままいくとほかのところで青春を使い果たしそうな勢いである。(私も人のことは言えないが)
「そういう花はいないの?」
「話逸らしたな」
「はは、俺は今はいいよ。みんなで大会目指すのが一番だし」
そう言って笑う真琴は本当に嬉しそうで、昔の笑顔を重ねてしまった。期待、高揚が入り交じったそれは水泳部を作るまで見られなかったものだ。真琴はあまり欲を出さない。わがままでない彼は古典的ないい人でいいお兄ちゃんである。だけど、そんな真琴にも内にくすぶるものがあったのを私は見てきた。だから彼がまたみんなで泳ぎたいと口にしたとき、なんだか心が一気に熱くなったのを覚えている。
そう考えたら恋愛事に現を抜かしている暇なんてないのだろう。願いがやっと叶ったのだから。しょうがない。あともう少し真琴のマネジャーやってやるか。
「ごめん。野暮なこと聞いた」
さてと、とプールから足を上げる。そろそろみんなも来る頃だろうからその前にストップウォッチと怜くん用のビート板も出しておこう。そんなことを思いながら踵を返した。
「花、」
「え?」
ぱし、と手首を掴まれる。反射的に振り返るもプールの方を向いたままの真琴の顔は見えない。なんなんだ一体。
「真琴?」
「…予約!」
「はい?」
「大会が終わるまで、待ってて」
私を振り向いた真琴はさっきよりも優しげに笑っていて、私は言葉を飲んだ。主語も述語も足りないそれが指すことは何一つ伝わってないはずなのに、追求することができなかった。その目に真琴が願いを口に出した時と同じ、何かを欲する熱を見てしまったから。
息を飲む。夏の訪れを感じさせる風が吹いてお互いの髪を揺らした。何か、言った方がいいのだろうか。わかった。大会が終わってからね。今言えばいいじゃない。忘れないでよ。どれが正解なのだろうか。じんわり上がる顔の熱に動揺して頭がうまく回らない。
「……た、大会、頑張ろうね」
片言で結局口に出来たのはそんな言葉で。なのに、肯定も否定もしていないのに、真琴が嬉しそうに笑うから。
もうしばらく顔の熱さは引きそうにない。
拝啓、プールサイドの予約者様