願ってもない世紀末

 篠原と関わったのは三ヶ月ほどだった。なのに確かに絆があって、よく面影を探してしまう。それは他のレギュラーも同じだった。

「幸村くんを助けたいなら、何も言わずに私との関係を断ち切って」

 関東大会優勝を逃した俺たちは、幸村に顔向けできなかった。篠原が今までギリギリのところで保たせていた幸村は、ついに壊れてしまった。
 そんな時でさえ篠原はあの温かな笑みを浮かべて大丈夫だと言った。俺たちにとって幸村はなくてはならない存在で、俺たちはその条件をのんだ。
 しばらくすると幸村は平静をとりもどして、リハビリに励むようになった。篠原との約束は守っている。だから、溝は埋まらないまま。
 時間は無情に過ぎて、十一月になった。もうすぐ冬も本番。だいぶ寒い日が続いていた。部長を引きついだ赤也は随分その肩書きをならしてきた。頃合いを見計らって三年レギュラー全員で顔を出しに行った。その帰り道。

「伴音先輩…」

 赤也が真っ先に気が付いた。最近は日が沈むのが早くて、もう辺りは暗い。よく気が付いたもんだ、と思いながら赤也の指差す方を見た。
 篠原は険しい顔をして校舎を眺めていた。辺りにはつい話し込んで下校が遅れた俺たちの他に誰も居ない。篠原はなにかを呟いているようだった。
 柳生が篠原の表情の険しさを指摘した。あの約束は今も有効なのだろうか。俺には踏み出す勇気がなかった。

──その時

 校舎の影が伸びて、篠原の腕や足を拘束した。あり得ない光景だが、今現実に起きていることだ。篠原は苦悶の表情を浮かべてそれにあらがっていた。

「篠原!」

 思わず叫んだ。篠原の表情は驚愕に変わった。来ちゃダメ!!と叫ぶ篠原の声には必死さがあった。だけど見捨てるわけにはいかないから聞かず、俺たちは篠原を助けるために走り寄った。そして、影が俺たち全員を飲み込んだ。


160330
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