依頼


 その日の八神探偵事務所の依頼は、神経質そう顔をした夫婦からだった。きっちりと揃えられた髪型がそのまま性格を表しているように、硬い表情のまま依頼主である妻の山下尚子は、真っ直ぐに八神を睨むようにして座っている。その隣で同じくニコリともしない夫の山下宏輝は、一枚の写真を取り出し机の上に差し出した。

「娘を探してください」

 写真には一人の少女が写っていた。中学の入学式に撮られたらしいそれは、まだ幼さの残る顔立ちの少女が紺色のセーラー服を身に纏って控えめに微笑んでいる。

「名前は山下咲良。歳は十七です。一週間ほど前から学校にも行っておらず、家にも帰っている気配がありません。」
「……なるほど?失礼ですが、少し曖昧なようなのは…?」
「私たちは共働きで忙しいんですよ。それで娘と顔を見合わせる暇もなくて。昨日学校から登校していないと連絡があって部屋を確認したら、帰宅した様子が見られなかったものですから。」

 自分の子供なのに随分と他人事のように話す人だと、八神は少し眉を寄せて何か言いたくなるのを堪えた。自分が割とお節介な性格をしているとは自覚しているが、家庭的な事に安易に首を突っ込むべきではない。実際自分の家庭でも親は仕事で留守がちだった。色んな家庭がある事を、痛いほどよく知っている。
 隣で海藤が口を挟もうとする気配を感じ、八神はそれよりも先に体を前のめりにして話を続けた。

「では何か、友人関係などでトラブルに巻き込まれている可能性は?」
「さあ、真面目なのが取り柄な子だったので」
「なら事件というよりは、家出の可能性もありますね。心当たりのある場所などはありますか?よく遊んでいた場所とか」
「いいえ。基本的に塾と家の往復だけのはずです。ですが……、」

 そこで言葉を区切り、尚子が鞄から一枚の小さなシールを取り出し八神へと渡した。どうやらそれはプリクラようで、加工で目が大きくなった咲良が照れ臭そうに笑っている。その隣に一緒に笑って写っているのは、咲良とは正反対の派手な見た目の少女だった。

「この女子生徒が怪しいと思っています。娘の同級生なんですが、こんな子供のくせに派手な見た目して…きっとこの子がウチの娘を誑かしてるんですよ」
「この子の名前は?」
「確か、佐倉花織だったと思います。以前ウチの子を騙して学校をサボらせたこともあるんです。学校側にも近づけるなと言っていたのに…。そもそもうちは進学校なのに、こんな頭の弱そうな生徒を在学させるなんて。学校側も問題だわ」

 尚子はさも不愉快だという感情を隠そうとせず、嫌悪感を露わにして吐き捨てた。見るからに真面目そうなこの両親からは、髪の毛を染めた所謂『不良娘』は理解の範疇を超えた存在らしい。
 かつて『不良息子』だった八神は思わず苦笑して手元へと視線を落とした。プリクラの中で幸せそうに笑う少女たちの笑顔が眩しい。
 きっとこの花織という少女はこういう大人とは、相性が悪く。そしてこういう親の子供とは、時として相性が合ってしまうのだろう。

 とりあえず一週間の猶予をもらい、山下夫妻にはくれぐれも警察沙汰になる前に、と念を押されながらも帰ってもらった。
 どうも娘の安否よりも世間の目を気にしているように感じるが、恐らく真面目な娘が何か事件に巻き込まれているかもしれないなどと予想もしていないのだろう。
 扉まで見送っていた八神はやれやれと深いため息ついた。家出少女というのは神室町ではよく見かける。大方、窮屈な家庭環境に嫌気がさして仲良くなった不良の友達とハメを外した。そんなところだろう。
 さて、まずは咲良を探しつつこの佐倉花織という少女についても調べてみようか。そう思いながら振り返ると、そういえばさっきからやけに静かだった海藤が考えるようにプリクラをジッと見つめている。

「どうかした? 海藤さん」
「いや、この顔どっかで見たことある様な気がして…」
「え、マジで?」

 うーん、と唸りながら海藤は必死に思い出そうと頭をかかえる。その大きな手の中に収まると、小さなプリクラのシールはより一層小さく見えた。
 暫くうんうん唸っていた海藤は、「あ!」と大きな声を上げた。

「思い出した、キャラメル女だ!」
「………は?」




 Back    
フロランタン