芽生えた絆
―――…

ガタンと音を立てて車内が揺れる。ようやく列車が動き出したようだった。


『シリウス、お前いつまで膨れてんだ?』


ツカサちゃんはシリウスの顔を見ると大きくため息をこぼす。シリウスは、ツカサちゃんの言葉通り、きりりとした眉を寄せ端正な顔は苦虫を潰したように歪ませていた。ジェームズはここぞとばかりにニコニコしている。


「シリウスは君たちのような女の子に一杯くわされたのが悔しいのさ!」

「…うるせェ、てめェは黙ってろジェームズ!」

「…はいはい。さて、ツカサにヒカリ。さっきは僕らの方こそ悪かったね。ところで、君たちはどこの寮に入りたいんだい?」


シリウスに肩をすくめてみせたジェームズは僕とツカサちゃんにズイっと近づく。僕と彼女は一瞬顔を合わせてニヤリと笑うとすぐにジェームズに顔をむけた。



『『もちろん、グリフィンドール(だよ/に決まってんだろ)!!』』


「うん、いいね!!その言葉を期待してたよ!…じゃあ、君たちは僕たちと仲間ってことだ。」



「………は?僕たち!?…お前と誰だよ?」


シリウスが弾かれたように体を浮かせ、切れ長の瞳を大きくした。


シリウスの発言に、ジェームズは相変わらずニコニコ笑顔を止めない。


「もちろん、僕と・・・」

そう言うとジェームズは自分に指差した人指し指をそのままシリウスに真っ直ぐむける。


「・・・君さ。他にいないだろ?」


「お前……本気で言ってるのか? 」

シリウスはジェームズの瞳を見つめる。




僕もツカサちゃんも原作を読んでいるわけだから、シリウスがなぜこんなにも驚いているのかおおよそ検討はつく。シリウスは実際にそういう教育を受けてきたわけなのだから。


先程のふざけたような笑顔はどこへいったのやら、ジェームズは眼鏡の奥に真剣さを醸し出した。


「シリウス、君は君だ。・・・違うかい?」


ジェームズのその言葉にはシリウスにとって何よりも嬉しいものだったに違いない。シリウスは一瞬目を再び大きくしたが、すぐにニヤリと笑った。





「・・・あぁ、そうだな。」





どうやら、ジェームズとシリウスの信頼はこんなにも早くから形成されていたらしい。これからそれがますます強くなるであろう二人を見続けるのがとても楽しみになった。



『ねね、シリウス。僕もシリウスと同じ寮がいい!』


シリウスの袖を掴めばその言葉はシリウスを驚かせたようだが、やはりどこか嬉しそうだった。



「あぁ、オレもグリフィンドールに入るぜ。」



『おっ!それじゃあこの四人で誓いをたてるか?』

『ツカサちゃんツカサちゃん!もしかしてアレやるの?』


彼女はそれに肯定の意を示すと皆に小指を出すように指示する。シリウスとジェームズの二人は訝しげに僕達を見ていたがそれはあくまでシリウスだけだ。もちろんジェームズは、やっぱりどこかワクワクしているようだった。二人とも僕達に倣い、小指を絡め合わせた。四人で絡まった指がほのかにあったかい。



準備万端に整った様子を見て、僕とツカサちゃんは同時に口を開く。


『『指きりげんまん嘘ついたら・・・』』

『......どうしよっか?』

口端を片方だけあげて笑った。


『そんじゃ、一年間そいつは魔法で生やしたネコ耳をつけて生活するなんてどうだ?』

「・・・ッぷ!!」

ジェームズはシリウスのネコ耳を想像したのか思い切り噴出す。シリウスはシリウスで顔を青ざめさせていた。


『賛成賛成・大賛成!!!んじゃ、せーの・・・』



『『ゆびきった!!!』』




この瞬間から僕たちの壮大な冒険が約束された。









―――――・・・



「・・・それで、僕は考えたんだ!
この糖分を加えれば細胞を活性・退化させる効果を持つ龍牙根。ご存知、これは気まぐれだからどちらの効果を持つか僕にもわからない。これを食べさせて悪戯に使えないか・・・とね?どうだい、ワクワクするだろ?」


ジェームズがマシンガンのように話し出した。彼だけじゃない、僕達もまたいろんなことを話した。だからこそ、こんな短時間でもジェームズ達の頭の良さは嫌というほど分かってしまう。



「ヒカリ、どうした?」

シリウスが突然だんまりになった僕を心配してくれたのか顔を覗き込んできた。


『ううん、なんでもない・・・その、龍牙根さー、百色草を熱して加えれば食べた奴は、若返りオア老けるに加えてカラフル素敵な色に変身すると思うんだ。』


『なるほどな。そして日光アズサの粉末を加える・・・というのはどうだ?光沢が出て色合いもより綺麗になる。』


僕と彼女の言葉にジェームズは目を輝かせる。



「・・・悪戯効果はそれでいいとして、一応元に戻す奴も作んねェーとな。潤い薔薇の花弁を刻んで砂カゲロウを煎じる・・・ってのはどうだ?」


「『『おぉーー!!』』」



ジェームズは、ずれた眼鏡を押し上げながらニヤリと笑う。


「シリウスは分からなくもないけど、まさか君たちもこんな高度な知識があったとはね。やっぱり、僕の目には狂いがないみたいだ!・・・君たち、どこでその植物を知ったんだい?一年の教科書には載ってなかっただろう?」


僕と彼女はお互いに顔を合わせるとニヤリと笑った。


『夏休みに軽ーく・・・』

『知識はいくら合っても困らない・・・ってな。』



僕らの言葉を聴いたジェームズとシリウスはお互い顔を合わせると口元を上げる。

「これはまた・・・」

「どこまでもオレたちを楽しませてくれる姫君たちのようだな。」





クスクスと和やかな雰囲気に包まれる中、僕らのコンパートメントはガラガラと音を立てて開いた。


「こんばんは。車内販売だよ。坊ちゃんにお嬢ちゃんたち、何か買うものあるかい?」



車内販売のおばさん魔女だった。


『待ってましたー!僕ね、この車内販売でお菓子買うのがすっごく楽しみだったんだよ!!ねね、ツカサちゃん何にする?』


『そうだなぁ、とりあえずカボチャパイ&ジュースに蛙チョコ、百味ビーンズ・・・とかか?ジェームズ、他におすすすめとかないか?』


「・・・よくぞ聞いてくれたね!ぜひとも僕は君達にこの‘ゴキブリごそごそ豆板’を食べてもらいたい。だろ?シリウス。」


「・・・まァ、物は試しだな。」


『『却下』』




結局、僕らはツカサちゃんが言ったお菓子の四人分を買うこととなった。





――――――――――
――――――
――――




『あれ?シリウスは蛙チョコ食べないの?』

「・・・やる。」

『いいの!?本当にもらっちゃうよ!?』


ヒカリのあまりの喜びように、シリウスはクスリと笑うと未開封の袋からチョコを取り出してヒカリの口の中に入れてやった。


「オレは甘いの苦手だからな。うまいか?」

『うん!!ありがとッ!』


ヒカリとシリウスの様子を見ていたジェームズは不機嫌そうなツカサの口に百味ビーンズを食べさせようとする。


『おい!ジェームズ、これはいったいなんの真似だ?』

「イヤだなツカサ、シリウス達だけ良い雰囲気なんてズルイじゃないか〜
だから、僕たちも彼らに見習おうと思ってね。」


『断固拒否だ。』





(えーいいじゃん、ほらほらツカサ、遠慮しないで!)


(よーし、そんなに地獄に堕ちたいかジェームズ。)

(わー、ツカサちゃん!僕も僕もお手伝いする!)

(え、ちょ…ヒカリ!?)

(…お前ら少しは落ち着いて席に座ってろ。)

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