ホグホグワクワクホグワーツ
楽しい汽車の旅は意外とすぐにおわった。と言っても、四人で悪戯試作品のアイディアを十種類くらいまとめていたぐらいなのだから、時間はそれなりにかかっていたのだけど。
空の色が水色からオレンジ・・・そして藍色に変わっていたのが何よりの証拠。
時が経つのを忘れるくらい俺たちは夢中になっていた。


途中で制服に着替えていた俺たちはカバンをそのままにしてホームに降りる。


イッチ年生、イッチ年生はこっちだー!オレについてこい!


そんな俺たちの耳に響いたのは森番であるハグリットの声。その声の大きさは体に比例するのか、ガヤガヤと煩いはずのホームでさえ隅から隅まで聞こえた。


『なんかさ、ハグリットのこの台詞を聞くとさ・・・』

『いよいよ、俺達もこのホグワーツの生徒って感じだな!』



顔を見合わせて笑う。辺りが真っ暗な中、ハグリットの指示に従って船付き場から約四人乗りの儀式の船に乗った。
周りが暗いせいか、湖の深い闇色に体が吸い込まれてしまう錯覚が散らばる。湖の遠くの方でバシャリと何かが跳ねた。


『ねね、ジェームズ!あれって大イカ…』


かな?と続けるはずだった彼女の言葉はすぐに消えた。


残りの二人枠にジェームズとシリウスがいると思っていたのに違う人たちがいたから。


『あー…ジェームズとシリウスな。ほら、この人の多さだろ?だから俺達とはぐれちまったみたいだな。』


苦笑するばその言葉でヒカリも納得したのだろう。新たに乗ってきた二人の男の子に目をむけた。


「…えーと、初めまして。僕はリーマス・ルーピン。よろしくね。」

少し緊張した声で一人目の男の子は握手を求める。


「ぼ、ぼくはピーター・ペティグリュー。よ、よろしく。」

こちらの男の子は、緊張しすぎてドモッてしまっていた。ピーターも握手を求めてくる。


『俺はツカサ・アトベ。んで、こっちにいるのが…』

『ヒカリ・アクタガワだよ!こちらこそ、よろしく〜』



俺はリーマス、ヒカリはピーターと握手し、それから俺らが腕を交差させて、もう片方と握手をした。



みんな乗ったなー?よーし、進めェー!!


ハグリットの声に合わせて、船は前進し始めた。




頭下げぇー!!



何かをくぐるために頭を下げた後、ハグリットの了承の声で再び顔をあげた。その途端、あちらこちらで大きな感嘆の声が挙がる。そう、立派にそびえ立つ、大きな大きなホグワーツ城に…










船付き場で降りた後、俺とヒカリはリーマスとピーターに別れを述べてジェームズとシリウスを探した。けれど、その数分後。やはり人ごみの中ではなかなか彼らを見つけることはできなくて、諦めて玄関ホールにむかうこととなる。



「ご苦労様、ハグリット。」

キビキビとした女性の声が聞こえて、俺たちは一斉に顔をあげる。


ミネルバ・マクゴナガル。夏休み中何度か遠目で見かけたけど、こんなに近くから彼女を見るのは今日が初めてだった。


「こんばんは。さて、皆さん、今から組分けの儀式を行います。こちらの準備ができるまで、あちらの小部屋で待機しなさい。呼ばれるまで身なりを整えておくように。」




――――――…


僕達が押し込められた部屋は本当に狭かった。そしてガヤガヤと煩い。皆これから行われる組分けの方法に緊張し、様々な噂話をしていた。


「ヒカリー、ツカサー!」


僕達を呼ぶ声に振り返ると、ジェームズとシリウスがいた。


「君達、一体どこをほっつき歩いていたんだい?僕たちずっと君達を探してたんだよ?」


『どこを…って言われても―――な?』

『うんうん。僕達、普通に歩いてただけだよね。』


「まー…いいじゃねェか。こうしてまた会えたんだしな。」


シリウスが上手くまとめて、僕の頭を撫でた。


『?…どうしたの、シリウス。』

「い、いや別に。」

どことなく様子がおかしいシリウスに、ジェームズはプククと笑いに耐えている。

「ヒカリ、ヒカリ、シリウスはプレッシャーを感じてるんだ。なにせグリフィンドールにならなかったら、一年間猫耳で過ごさなくちゃならないからね?」


「ジェームズ!!」

シリウスはジェームズに吠えたけれど、ジェームズはどこ吹く風と言った感じだった。



「お喋りをやめなさい。準備が整いました。二列並んで私に着いてきなさい。」

マクゴナガルが有無を言わさない雰囲気を出して生徒を静めると、シリウスとジェームズの後ろに僕とツカサちゃんが並んで大広間にむかう。


『わぁ』


扉が開かれた途端、魔法が施された天井と大きなシャンデリア。僕たちは在校生と教職員の視線を一斉に浴びた。




「あの男の子格好よくない?」

「知らないの?あの子はブラック家の…」
「…え?あのブラック?」


辺りから、ちらほらとシリウスの容姿に見惚れる女生徒の視線と、一部シリウスの家を知っているのか囁き声が聞こえた。横を見遣ればその声はシリウスにも聞こえていたのだろう拳を力強く握っている。僕は、歩きながらシリウスの拳をちょんちょんとつついた。


「…ヒカリ?」

シリウスは訝しげに僕の方を振り返る。


『大丈夫だよ、シリウス。』


シリウスは小さく笑った。








―――……



前に並んだ椅子に座るよう促された俺たちは静かにその時を待つ。マクゴナガルが置いた古びた帽子が動くその時を。コホンと帽子が咳をした。


【いつもは飾れるだけのもの
本来の用途で使ったのは
一体いつのことだった?
それでも私は使われる
なぜなら私は考えるから
主は私に力をくれた
君達ヒカリを導かんと

グリフィンドールは勇猛果敢
熱き想いを貫くは
真の友を手に入れよう

ハッフルパフは誠実さ
仁義貫くその心
劣等感をも吹き飛ばす

レイブンクローは勤勉さ
学びの欲とその姿勢
優等生の模範生

スリザリンは狡猾さ
プライド高きその心
深い団結、もたらさん

被ってごらん一思い
考える帽子の大きな役目
正しき寮へと導こう】


帽子が歌い終わったあと、会場は拍手に満ちた。帽子はお辞儀をして静まる。時を見計らったマクゴナガルは、丸められた羊皮紙を開くと息を大きく吸った。


「アクタガワ・ヒカリ」

アルファベットがaだから、最初に彼女が呼ばれる可能性は高いだろうなと思っていた。ヒカリはすぐに帽子のあった椅子に座ると、帽子が被せられる瞬間に目があう。少しだけ不安そうな様子の彼女に、大丈夫という意味をこめた視線を送り頷いた。


「−−−−グリフィンドール!!


帽子が大広間に響く声で結果を叫んだ瞬間に、割れるような歓声が響き渡った。













―――…




結果としては俺も無事にグリフィンドール寮に入ることができた。




「ブラック・シリウス」


‘ブラック’というファミリーネームが出た途端、大広間はシーーンと静かになる。注目されたシリウスに、俺とヒカリも見守ることしかできなかった。この場にいる全員が固唾を呑んでシリウスの組分けを待つこととなる。


『................』


どれくらい経っただろう。おそらく、俺やヒカリ以上に時間がかかっているな、と考え始めた時だった。


グリフィンドール!!



「「「………」」」



大広間がシーーンと静まりかえった。多くの人はシリウスの頭から帽子が脱がされるのをただ見ているだけだ。俺とヒカリはお互いに顔を合わせるとニヤっと笑って息を思い切り吸い込んだ。






やったねー、シリウス!!

お前は俺達と同じくグリフィンドール生だぜ!!



シリウスはグリフィンドールに入ることを予め知っていたとしても、帽子の決断は嬉しかった。ヒカリと俺が叫んだのと同時に、ようやく事態を飲み込めた他のグリフィンドール生も祝福をした。一方、スリザリンでは落胆の表情が隠しきれていない。俺達の声に気づいたシリウスの眉が若干寄っていたが、口元は綻んでいた。


組分けは滞ることなく進み、程なくして総勢143人の組分けが終了する。





カン カーン


ダンブルドアがスプーンを片手にグラスを鳴らしたことで、生徒たちは彼に注目した。


「新入生の諸君、入学本当におめでとう。」


ダンブルドアが立ち上がり祝福の言葉を述べた。



「さてさて、皆もお腹が鳴っているころだと思うが、最初に言っておかねばならぬことがある。禁じられた森には立ち入らぬことじゃ。そこに入った以上、命の保証はわしとてできぬ。よいか。禁じられた森へは近づかぬように。
許可された場所以外での魔法の乱用も禁ずる。わしからは以上じゃ。皆のもの、掻っ込めー!」



パンっというダンブルドアの合図で、大広間のテーブルは豪華な食事が並ぶ。想像してた以上の食べ物の量に、俺達は目を丸くしてフォークを取った。

top/main