あの石が幻のゲームだったら良いのにね!
しくしくしくしく…
「「『……………』」」
授業後の冒険初っ端からヒカリは派手に転んだ。顔面からいってしまったのか額が赤くなっている。
『悪ィ、シリウスパス。面倒だし。』
「同じく僕も。」
ジェームズとツカサにやっかいごとを押し付けられたシリウスは呆然としていたが、すぐに我に帰ると頭をゴシゴシとかく。今までの女のように放っておくこともできたのだが、ヒカリ相手だとそれがどうしてもできない自分に疑問に思った。
シリウスは一つ溜息をはくと、ヒカリの前で膝をつく。それはまるでナイトさながらだった。
その様子にジェームズたちはもちろんのこと、ヒカリも驚いて涙が引っ込む。それを見たシリウスがニヤリと笑った。
「ヒカリ、これ以上泣いたらこれから手に入れるお菓子没収な。」
グレイの綺麗な瞳がヒカリにとっては悪魔に見えた。一方のジェームズとツカサは『「そうくるかー!」』とお腹をかかえて笑い出す始末である。ヒカリはお菓子のことで頭が一杯になり、転んだ痛みなんかどこかに飛んでいってしまったようで、すくりと立ち上がった。
『オイ、ヒカリ。ポケットから何か落ちたぞ。あ?これって確か......』
『…あの蔵で手に入れた奴だよね?僕、ポケットにいれてたっけ?』
それは透き通った青い石のようなもので、まるで勾玉のような大きさと形を持っていた。
「それ…今流行りの魔法ゲームじゃねェか。」
シリウスの言葉に反応したのはジェームズだけだった。
それからジェームズはニヤリと笑う。
「でもおかしいね。僕が聞いた話だと、市販されているゲームは青じゃなく赤だった気がするんだけど…シリウス。」
ジェームズの言葉にシリウスは一度考えた後、ゆっくりと口を開く。
「あぁ、確かにな。だが、市販されているゲーム…これも手に入りにくいものなんだが、このゲームにはある噂があるんだ。」
『『噂?』』
ヒカリとツカサの声が重なった。
「実際このゲームが流行り出したのはつい最近なんだが、そのゲーム自体はもっと前に完成していたらしいぜ。しかも、だ。そのゲームのモデルとなったゲームも存在する。」
シリウスの言葉にジェームズも何かを思い出したのか、あぁと声をこぼした。
「それなら僕も聞いたことがある。それをクリアーすれば願いが叶うが、ゲームオーバーになれば一生ゲームに閉じ込められるって話だろ?」
ジェームズの言葉にシリウスは頷いた。
「かのゲームは青き海がごとし、念じれば扉は開かん。」
「その名も〔幻の空間ゲーム〕」
−−−−
その後の俺たちは、夕飯の時間になるまで大イカの見える湖近くでお菓子を食べることにした。もちろん、ゲームの話をつまみにして――――
「まー、どっちにしろ少しこのゲームについて調べてみる必要があるね。闇の魔術がかかっていないとも言い切れないしさ。もし、これが本物なら、君達の家にあった理由も謎だし。」
『んーでもさでもさ。今難しいこと考えてもしょーがないと思うんだ。もしこれが本当のゲームだとしたら面白そうだと思わない?だってだって、自分の命をかけてこのゲームをするんでしょ?なんか冒険って感じでワクワクだよ!』
ヒカリの脳天気な言葉に、重かった雰囲気が一気にどこかへ吹っ飛んだ。だが、コイツの言うことも一理ある。どっちにしろ好奇心には勝てないってもんだ。
「ヒカリ、君のポジティブさには脱帽するよ!」
ジェームズは瞳をきらきらしながらヒカリを見る。シリウスは呆れた表情をしていたが、ポンポンとヒカリの頭を軽く叩いている様子からも満更でもなさそうだ。この二人も内心では好奇心が溢れかえっているのだろうか。とりあえず今は、俺達の日常に刺激を与えてくれるであろうこの青い石に感謝することにしよう。
ハイ、カーット!!
どこからとも無く声が響き渡り、日常の景色が靄となり胡散していく。この場にいるのは俺とヒカリの二人だけとなった。
『..........と、こんな感じで、彼らと仲良く冒険できる日が来ることを俺達は夢に見ていたんだけどな。』
『なかなか思い通りにはいかないもんだね。』
俺とヒカリは顔を見合わせると大きな溜息をついた。
2009/8/24