魔法界と兄貴
―――――――…



ほー…ほー…
ほー…ほー…




『ねーツカサちゃん、アレ。』


『イヤ気にするな。アレは幻覚だ。』


『でも、ここ日本なのに―――』


『気のせいだ。ちゃんとした証拠がなければ俺は認めねー。』



「ヒカリもツカサも何話してんのー?」



ほー…ほー…
ほー…ほー…




『『……。なんでもない。』』





僕とツカサちゃんが和風庭園に接する長い廊下を通って連れてこられた場所は、僕やツカサちゃんが寝かされた所よりも少し広い茶の間だった。長いどっしりとした木のテーブル。フカフカの材質の良い座布団。綺麗に生けられた花に掛け軸。カコーンと獅子威しの音が明け離れた庭園から聞こえた。うーんまさしく日本の風流。



「座れ。」



跡部を真ん中に兄貴や忍足が座り、僕達もそれに倣いテーブルを挟んで兄貴達と向かい合って座った。それを確認した跡部がようやく口を開く。



「まず、お前達はハリーポッターを知っているな?」


『……。それが兄貴達の行方不明と関係があんのか?アン?二日間も俺達はお前らを必死で捜してたんだぞ。言い訳くらいなら聞いてやる。言ってみろ。』



「……二日間、か。フン。こちらと元の世界では大分時の流れが違うようだな。」


「ヒカリ、心配かけてごめんね。けどけど俺達も不可抗力だったんだCー…」


「ジローの言うことは確かやで。自分らもあの鏡の部屋に入ったんやろ?あの鏡はこの世界と繋がっていたんやからな。―――俺達は問答無用で放り込まれたんや。」



『……。こっちとかあっちとか。俺達は理解不能なんだけど。』



ツカサちゃんは眉を潜めて兄貴達を睨みつける。けど、やっぱり、と僕は思った。気づいてしまった。兄貴達が言いたいこと、そして恐らくこれから言おうとしていることを。


そのカギを握るのが――――…




『ハリーポッター…の世界。』


僕の言葉にこの場が静まり返ると、僕は目の前にいる跡部をジッと見つめた。



『ここは、本の世界なの?』





跡部は僕の言葉を聞くと口端をクイッと上げる。返された言葉は"YES"だった。






話しとしてはこう。
兄貴達はハリーポッターの世界…しかもリドル世代に飛ばされた。

目が覚めた時には、黒髪アーンドかの有名な安倍清明の出身家である安倍家の子供(しかも丁度ホグワーツに入学できる年齢)となっていたらしい。ちなみに跡部が安倍家本家の子息、兄貴や忍足は安倍家各宗家(と言っても身分はかなり高い)の子息であり、安倍家は、ここ、ハリーポッターの世界において、ブラック家やマルフォイ家にも劣らぬ魔法界の純血名家なんだとか。
それから三人はホグワーツに入学し、無事卒業。現在は各々の家の当主という重役を任されるようになった。



『と、要約すればこんな感じでいいんだよね?』



僕の言葉に跡部は「あぁ。」と頷く。ツカサちゃんは隣で『嘘だろ…』とぶつぶつ呟きながら頭を抱えていた。忍足はそんな彼女を一瞥すると、懐から杖を取り出してひとふりする。するとテーブルの上にはお茶の入った湯呑みと煎餅が出てきた。



「これで信じてくれるやろ?」



僕はツカサちゃんを見つめると彼女は一度ため息をつき、それから僕に頷いてみせる。僕はそれを受けて忍足を見つめた。


『分かった。兄貴達の話は信じるよ。けど―――』


「なんや?まだ不審がるところがあるん?」



お兄さんに言ってみー、と忍足はニコニコ笑いながら組んだ手に顎を乗せた。



『ううん、ただね…。僕的にはお茶と煎餅より、紅茶とケーキの方が良かったなーって。』



僕の言葉に忍足はガクリと顎を落とす。跡部が呆れた顔をしながらも杖をひとふりして、僕の要望通り紅茶とケーキを出してくれた。(ちなみに兄貴はいつの間にか熟睡中で、それに気づいた跡部に怒られていた。)



『―――まー…大体話は分かった。なるほどな、だから兄貴達は名前呼びになったのか。考えてみりゃーみんな"安倍"になっちまったんだもんな。』


「あぁ。」


『んで…元の世界に帰る方法は見つかったのか?』



「「「……………」」」



『……。OK。見つからなかったわけか。一つ質問。俺達って兄貴達のような魔力はあるのか?』



「あぁ、マグルは俺様のこの屋敷には入れねぇようになってる。」



『ヒカリ、つーわけだけど、どうする?どっちにしろ暫くは俺達もこっちにいなくちゃなんねーらしいぜ。』



ツカサちゃんの言葉に僕はニーッコリと笑った。そんなの決まってる。せっかく魔法が使える世界に来たんだ。やることと言ったら一つ。



僕の笑顔を見たツカサちゃんも同じく口端を上げて頷いた。



『んじゃ、俺とヒカリはホグワーツに入学する。どうせ、俺らも兄貴達がこっちに来た時みたく都合良くも十一歳に縮んじまってるみたいだしな。つーわけで早く出せよ、入学許可証。』



「………なんや敵わんな、気づいてたんか。」



『とーぜん。僕らを誰だと思ってるわけ?』




僕とツカサちゃんの笑みに跡部が口端を上げた。と、同時に跡部お得意の指パッチン。その音が鳴った途端、僕達の膝上にホグワーツの校章が印刷された包みが現れた。




『よっしゃ、ヒカリ。これで俺達も夢の魔法使いだぜ。』


『うんうん!悪戯しまくり万々歳。ってかてか、僕らのファミリーネームってやっぱ"アベ"?』


『あー…確かにそうなるな。純血名家だっけ?そうなると面倒臭そうだな。俺達の容姿だけならまだしも家名目当てで、うじゃうじゃ湧いてきそうだ。』


『ゲゲ。それはマジ勘弁。ねね、どうせならさ僕達のファミリーネームはそのままアトベとアクタガワでいいんじゃない?』



『それもそうだな。よし、つーわけで兄貴。ダンブルドアにそう伝えておいてくれ。』




「――フン。まー良いだろう。だが、一つだけ条件がある。」



跡部の言葉に僕達は同時に首を傾ける。



「お前達は"男"としてホグワーツに入学しろ。」




『『……。ハァ?』』







コソリ
(……なんや景吾、二人に男装させる気なん?)


(当然だ。俺様の目が届かねぇ所でツカサに悪い虫がくっつくことは許可できねぇからな。)


(ハイハーイ。俺も景吾にさんせー。ヒカリってば可愛Eから、男装しないとすぐ男に言い寄られるCー。)



(……。ジローもこういう時だけはしっかり覚醒するんやな。けど、ほんまに大丈夫なん?ツカサとヒカリと同い年ゆーたら、丁度悪戯仕掛人辺りちゃうん?あいつら、かなりのくせ者やで。いつかはバレるやろ。)



(……。バレた時はバレた時だ。)



(ま、ええか。けど、ヒカリ達が男装するとなると、それはそれでモテそうやな。あの二人、普段の俺ら見てるせいで女のツボ心得てそうやし。)




『男装か…ま、それも面白そうだな。』


『僕達の容姿と演技力なら余裕で女の子達を落とせるだろうし。』


『クク。じゃあ、ヒカリ、どっちがホグワーツの女共を骨抜きにできるか勝負だ。』


『いいね!よーし、いくらツカサちゃんと言えど負けないからねっ!』


『望むところだ。』





(なんかあの二人、スッゲー盛り上がってるC。楽しそーー!)


((……………。))

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