二人きりの会議
――――――…


『んでさ、結局俺達は魔法界で過ごすことになったじゃん?それもいつ元の世界に戻れるかも分からないっつー不確かな期間中。どーするよ、これから。』


俺達は先程目覚めた部屋に置かれたフカフカベッドの上でごろごろしていた。畳みにベッドは合わないんじゃ……っつー台詞は禁句な。あの布団のまま寝続けたら身体が痛くて仕方ねーんだよ。つーわけで、この高級ベッドは兄貴達に即用意してもらった。


『兄貴達曰く親世代と僕らって同学年らしいじゃん?僕的には悪戯仕掛人と仲良くなりたいなーって思った。楽しそうだし。でも…』


『でも?』



『僕的にセブも好きなんだよね。だからイジリはしたいけどイジメたくはない。第一あの嫌がらせはガキっぽい。僕のポリシーに反する。』



ヒカリはポフンと枕に顔を埋める。お前のポリシーってなんだよ、とツッこもうとしたけどやめた。………まー確かにな。悪戯仕掛人と一緒にいれば必然的にセブルスをイジメることになるだろーし。しかも、本に書かれた描写シーンを考えても…アレはやり過ぎ、つーか悪質だもんな。



『そうだな。俺も派手な喧嘩は好きだけど、ネチっこいのは嫌いだ。じゃあ、こうしたらどうだ?』



俺の言葉にヒカリは沈んでいた枕から起き上がって俺を見る。



『グリフィンドールに入る…が俺達からは悪戯仕掛人に関わらない。』


『けどけど、そしたら――』


『俺の話は終わってないぜ?アイツらと関わるには、まず俺達を認識してもらう必要がある。そこで、だ。仕掛人には関わらないが、悪戯はする。授業中を含め、俺達はホグワーツでも目立つ行動をする。つーか、わざわざんな行動しなくとも俺達容姿には恵まれてるし?どっちにしろ目立つだろうけどな。とりあえず前者は単に俺が楽しみたいから取り入れる。まーそうすりゃ、嫌でもあいつらから絡んでくるだろ。そんで気に入られる。無理矢理仕掛人にいれられる。』



『僕達はイヤイヤ入った訳だから、何をしよーと仕掛人に文句は言わせない。』


『そうだ。つーか、そもそも前提が違うしな。リーマスはジェームズ達を止めたかった、とか言ってるが行動できてねぇ。それはあいつの劣等感とジェームズ達に嫌われるのが怖かったからだ。』


『僕達、劣等生じゃないもんね。』




まー、冗談はこの位にして。そろそろ本題に入ろう。俺の笑顔が消えたことが分かると、ヒカリも真剣な表情を浮かべて姿勢を正した。



『仮に、だ。俺達はこのまま元の世界に帰れなかったとする。――――俺の聞きたいこと、分かるな?それを踏まえてもう一度言う。……どうする?』



『……。僕は……未来を、変えたい。』


『…………』


『けど、そうすることによって僕達や兄貴達に火の粉が降り懸かるって言うことなら―――僕は黙って彼らを見殺しにする覚悟はできてる。』



ヒカリの真っすぐな視線と俺の視線がぶつかった。嘘偽りのない瞳。俺はフっと笑う。



『スリザリン的思考だな。―――けど、俺も同意見だ。わざわざ命を賭けてまで本の筋書きを変えようなんざ馬鹿げてる。まーそれ以外だったら、未来を変えてやってもいいだろう。』


俺の言葉に、ヒカリはニっと笑った。そして右手を高くあげる。



『ハイハーイ、質問。在学中は恋愛込みアリですかー?』


まるで遠足時の、バナナはお菓子に入りますかー的なノリ。俺は少し考えて口を開いた。


『まー、いんじゃね?青春の醍醐味つったら恋愛だもんな。何。お前、狙ってる奴でもいんの?』



『シリウス。』



キラキラと輝く瞳をパチパチしているヒカリを見て、俺はなるほどと頷いた。


『いいんじゃないか?けど、もし付き合うとするなら……せめて男装をカミングアウトしてからにしろよ。これ、BL狙ってるわけじゃねーんだから。つーか、そっち系に走るシリウスを見たくねぇ。』


『ラジャー!』


『そもそも兄貴達も何考えてるんだろうな?男装するにしたって学年が上がれば、俺達は嫌でも"女"になるし、いずれはバレるだろーよ。』


『そん時はそん時。……ねね、ツカサちゃんは誰か狙ってる奴いんの?』



『……。あー…どうだろうな。今のとこ、まだ分かんねー。だから、できたら教える。』


『OK!じゃあ、それまでは僕のツカサちゃんね!』



『それはそれで、周りからはBLっぽく見られそうだな……ま、なんとかなるか。』






こうして二ヶ月後、俺達は無事ホグワーツに入学することになる。


別れの際、兄貴達がなんやかんやで注意事項を書いた紙を渡してきたが、それを読んだ瞬間その場でビリビリに破いた。




一、極力男に近寄るな

ニ、毎日手紙を書くこと

三、男性教諭にも気をつけろ

四…




と、こんなことがエンドレスに続いていて、兄貴達のシスコンぶりに頭を抱えた。
………けど、最後の一行、【百、今年一年最高に楽しむこと。以上だ】だけはポケットに入れた。他は全て捨てたけど。





…上等じゃねーか。言われなくてもこの一年、ヒカリと共に存分に楽しんでやる。



そう決意した九月一日。

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