誤算と双子
――と、こうして僕達はホグワーツのピッカピカの一年生になったんだ。
――――――――――…
僕はツカサちゃんと並んでグリフィンドールの席で夕食を食べていた。ホグワーツの食事は豪華だ。美味しい。入学してから今日で約二週間。夕食時はいつもにましてニコニコ笑顔だった僕。……だけど、もう限界。隣のツカサちゃんを見ると、やはり僕と同じ気持ちなようで、傍から見ても分かるほどムッスーとしていた。
『…納得いかねー。』
『同感同感。マジあいつらどこに目ーつけてんのッて感じ。』
僕達の機嫌が悪い理由。
「あぁ、僕の愛しのリリー。君はなんて美しいんだ。まるで君は絶壁の谷間に咲く一輪の白百合のようだね。」
「煩いわポッター。貴方は夕食くらい静かに食べられないのかしら。ブラック、ポッターを黙らせて頂戴!」
「俺にふるなよ。ったく、ジェームズ!飯くらい落ち着いて食え!」
「そうだね。シリウスの言う通りだよ、ジェームズ。君は少し落ち着いた方がいいと思う。」
「ぼ、僕もリーマスに賛成。」
「えぇ!?君達は僕の味方じゃないのかい!?」
『『………』』
何が不満って?……二週間。もう二週間!分かる!?もう入学してから二週間が経った。僕達はこの容姿から年上のお姉様達に可愛がられ、授業中では(ある意味)目立ち、悪戯仕掛人に劣らないくらいの悪戯をしてきた。なのに、これは何!?悪戯仕掛人は僕らを誘うどころか、あいつらいっこうに僕らに絡もうとしないんだけど。何?僕らじゃ役不足なの?何様?あーマジマジむかつく。すっげー意味不明。
「……。君達、いくらなんでも今は食事中だよ。糞爆弾を構えるのはさすがに止めておいた方がいいんじゃないかな?」
ギラギラと悪戯仕掛人を睨みつけている僕達を見て苦笑しているのは、グリフィンドール三年生のフランシス・ハーコード。金髪で青目の端正な顔つき。そして落ち着いた雰囲気を醸し出す彼は、伝統・歴史・格式のある純血名家ハーコード家の御子息。純血名家出身としては珍しく誰にでも分け隔てなく接する心優しい彼は、上下関係なくホグワーツ女生徒から莫大な人気があった。またの名をホワイトプリンス。
『止めてくれるなフランシス!俺はもう我慢の限界なんだ。あいつら、今に見てろ!この爆弾ぶちかましてイヤでも俺らに絡ませてやる!』
『ハイハイハーイ。僕もツカサちゃんに大賛成!見てろよ、シリウス。そのご自慢の顔を―――』
「……ハァ。君達は仮にも女性だろう。ほら、スリザリンのテーブルを見てごらんよ。キースがものすごい勢いで君達を睨んでいる。」
フランシスが指差す先。確かにそこにはフランシスと瓜二つの顔が僕達を睨んでいた。キース・ハーコード。スリザリン。見ての通りキースとフランシスは双子だ。キースが兄でフランシスは弟。フランシスの柔らかな物腰とうって変わって、キースは寡黙だった。そこがクールで素敵、とフランシスに負けず劣らず女生徒にモテる。またの名をブラックナイト。結局後でキースに説教されるのがイヤだったから、渋々と僕達は爆弾を懐にしまった。
会話から分かるように、キースとフランシスは僕達が女であることに気づいている。出会いは廊下。いつものように悪戯をして、マクゴナガルから逃げている途中にこの二人から助けてもらったのがそもそもの始まり。
そして、なんと驚くことに出会ったあの瞬間、この二人は僕達が女であることを見破った。
もちろん僕達の演技は完璧だった。入学する前に髪をバッサリと切った(兄貴達からはもう反論されたけど)から見た目は兄貴達の幼い頃バージョンと瓜二つだし、女の子達を口説き落とすこともできた。ほとんどの先生や他の生徒達はもちろん僕達を男だと信じて疑わない。疑われたこともなかった。なのに、この二人には見破れた。
正直悔しかったけど完敗。それ以降、僕達は授業以外は何かと四人で行動することが多くなった。二人が三年生ということもあり、授業で疑問に思った所や発展的な内容を教えてもらっていた。頭が良く、物知りな彼らの教え方は下手な先生よりも上手で、何より僕達自身有意義に過ごせる。僕達は彼らと一緒にいることに抵抗を感じなかった。
「…で、君達は夕食の後どうするんだい?僕とキースは図書館で課題をやろうと思うんだけど。」
『あぁ、それなら俺達も図書館に行くぜ。マクゴナガルから罰としてレポート書くように言われたんだ。』
『そうそう、それも羊皮紙二巻き分。内容は【変身術の意義とその有用性】。』
「そう。でもその位君達ならすぐ終わりそうだね。」
『――――ところがだ。恐らくマクゴナガルもそう思ったんだろうな。課題をもう一つ追加された。』
『羊皮紙三巻き分。内容は【授業を黙って静かに大人しく受けることの意義と有用性】』
『まー…俗に言う【反省文】だな。』
「……。授業中何したの君達。」
羽を芋虫や青虫に変えて遊んでいました。