見つけた手がかり
『キャッホォォー!』


「こちらフゥ太。うん、きこえるよ、ランキングの星…」




僕は今、恭弥とフゥ太と共にガランとした応接室にいる。先程から、フゥ太の能力による浮力感を存分に楽しんでいた。つまりは空中遊泳してるってこと。これがなかなか楽しいから止められない。恭弥が少し離れた壁際で呆れたように僕を見上げながら立っていたとしても別に気にしない。



『僕、一度で良いから空飛んでみたかった―――ぎゃっ!!』


鳥のように両手でパタパタ動かしていると、突然浮遊感がなくなった。当然僕の体は重力に従って落ちるオチルおちる…




「………君って本当に馬鹿だよね。」




だけど、床とぶつかって痛い思いをすることはなかった。恭弥が僕をキャッチしてくれたから。エヘヘと笑いながらお礼を言って恭弥から降りた。




「ヒカリ姉、ヒカリ姉が捜していた人のランキングが終わったよ!


第一位は―――…」






キーンコーン
    カーンコーン




『………あー…チャイム鳴っちゃったね。フゥ太、そのランキングは教室で教えて!とりあえず今は教室までダッシュー!!』




僕がフゥ太の手をとってダッシュ体制になった時に、恭弥は僕らの前に立ちはだかった。



「ちょっと待ちなよ。少しくらい遅れたって良いでしょ。君、早く結果言いなよ。」



「え…でも…。」


『ダメぇ!今日は大事な大事なテストなんだよ!恭弥には後でちゃんと教えるから、ね?』


「…………」」



『お願い恭弥。』




「……………放課後。」


『了解了解!さ、フゥ太、早く行くよ!』


僕たちはそのまま応接室を後にした。










――…


僕とフゥ太は空いている教室に入った。そして適当な椅子に座る。


「あれ?ヒカリ姉、テスト受けないの?」




『テストは、まー大丈夫。あ、恭弥には秘密ね。…それよりフゥ太、さっきのランキングの一位から十位までの控えを僕に頂戴?』


「いいよ。ちょっと待ってて。」


フゥ太は一枚の紙を出すとカリカリカリと書いて僕に渡してくれた。僕は一通り眺めるとスカートのポケットにしまう。フゥ太に頼んだランキングは、ツカサちゃんに会える場所ランキングだった。
もし、この世界に彼女がいなければ、跡部邸か氷帝学園中等部校舎…もしくはテニスコートだろう。けれど、ランキングはそのどれにも当て嵌まらなかった。


ランキング一位は……。

『..........っ!』


見覚えのある文字に、息を呑んだ。



『…フゥ太、たぶんテスト中はさすがに無理だと思うけど、それ以外だったら教室に入っても大丈夫だからね。一応これが見学許可証!何か言われたら、これ見せれば大丈夫だから!昨日、頼んでおいたんだよ。』




「うわぁー!ヒカリ姉ありがとう!僕、ヒカリ姉のことだぁい好き!」




『僕もー』



フゥ太にチョコレートをあげて、ツナのことについて雑談した後、空き教室を出た。












―――…



『おはようー!』


僕は堂々と前のドアから教室に入る。教室の雰囲気は一瞬でピタリと止まった。



「沢田妹、遅刻か?今日は成績にも加味する数学の小テストって言ってただろ。あと10分と少ししかないぞ?」



『10分でじゅーぶん。あ、あと僕遅刻じゃないです。応接室にいました。』




「な、じ、じゃあ雲雀さんに!?なら…仕方ないな、特別に放課後同じテストを受けるか?」



『大丈夫です。このまま受けます!』



「し、しかし…」



『大丈夫大丈夫。』



僕は廊下にいるフゥ太に目配せする。僕のアイコンタクトを受けたフゥ太は、後ろのドアからソーッとツナの様子を観察しているようだった。僕は、それを確認すると机の上に置いてある問題を解き始める。



フゥ太を見かけたツナのリアクションを思い浮かべると、顔がニヤついて仕方がなかった。




10分後、チャイムの音と共にテスト用紙が回収される。それと同時に花ちゃんと京子ちゃんから「一緒に着替えに行こう」と誘われた。次は体育だったため僕らはすぐに更衣室へとむかった。



「それよりさ、アンタどうしたの?」


花ちゃんが着替えながら僕を見つめてくる。僕は制服を脱いで首を傾けた。




『うぅ〜…寒い。っで、何が?』

「何がって…朝遅れてきたじゃない。まー言いたくないなら別に無理に聞かないけどさ。ちなみにここ暖房ついてるわよ。」



『えー?…えーっと、今日のはちょっと野暮用。僕ん家で預かってるフゥ太って子の学校見学のための許可をもらってたんだよ。』



「ゲっ、あたし子供嫌いなんだけど!考えただけでも鳥肌もんよ!」


「だからヒカリちゃん遅かったんだね。今日の数学のテスト大丈夫だった?」



『んーまぁまぁ。あ、でも一応全部解いたよ。』



「うわー、やっぱりすごいんだねヒカリちゃん!私なんか時間ぎりぎり使って全部解いたもん。」

復活した花ちゃんが半ば感心半ば呆れたように僕を見遣る。



「アンタ、その脳みそ片割れに分けてあげたら?双子と言ってもこうも違うとはね。」


『ツナはやればできる子だと俺は思ってるぜ……パタリ。』


「何キャラよ。」



僕はパタリと倒れたフリをして、花ちゃんに突っ込まれた。京子ちゃんはふふふっと笑っている。着替えを済ませた僕らは体育館へとむかった。




――――――――…




放課後、約束通り応接室に行って恭弥に手短に話した。フゥ太のランキングで、今はまだこの状態のままストーリーを進めた方が彼女に会える確率が高いことが分かった。なら、それに従おうじゃないか。この世界に彼女がいる。それだけで、僕の気持ちが高ぶった。




『たっだいまー』




ぐずついた天気の中、僕は急いで帰宅した。傘からはみ出して濡れてしまった鞄の雫をハンカチで拭き取る。玄関口にいくらかの靴があることから、もうフゥ太のショータイムが始まっているようだった。自分の部屋に荷物を置いて、私服に着替えてからツナの部屋へと直行する。




『ツナ、ただいまーっ!』



中に入るとツナや隼人やハルがグッタリとしている。代わりに武がお帰りと言ってくれた。


『あり?みんなどーしたの?それにランボたちは?』




「あ、ヒカリおかえり。ランボとイーピンとビアンキは、傘を持って母さんを迎えに行ったよ。
……これは、その…実はフゥ太のランキングは、雨が降るとでたらめになるらしくてさ。」



「ったく、ランキングの小僧。こっちはマジで焦ったぜ…」




ツナのベッドを見ると、フゥ太がぐでーんと丸くなっている。相当雨に応えたらしい。




『ま、そういう時もあるよ。ねね、フゥ太。これからマフィン焼くんだけど食べれる?』




僕の言葉を聞いたフゥ太がガバリと起き上がって僕の所まで飛んできた。うん、フゥ太は素直で可愛い。



「食べるーーっ!!」


『じゃあ、みんなの分も作るから手伝って欲しいんだ!』


「いいよ!」



「あ、ヒカリちゃん!ハルも手伝います!作り方、ハルにも教えてください!」



『OK!じゃ、男子諸君、そーゆーことだから期待して待っておくよーにー』



(ヒカリのおかげで、お前らが作ったグダングダンな雰囲気がなくなったな。)

(ハハハ、やっぱツナの妹だけあってヒカリはスゲーのな。)

(ったりめーだ、この野球馬鹿!ヒカリは何をやってもスゲーんだよ!)



(確かに、ヒカリは昔から何やっても人並み以上にこなしてたからな…)


(そう言えば、ヒカリの作るスイーツはフゥ太のランキングによるとマフィア界ベスト10に入るらしいぞ。)



(((ベスト10!?)))

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