子猫な気分
近頃はいつも以上に寒くなって、雪もどんどん降る。だからツナたちは休日の学校の校庭で雪合戦している。元気だよね。え?僕?
僕は今暖房の効いた応接室のソファーの上でぬくぬくしているんだ。僕、犬より猫派だからね。従順なMより気まぐれなS派。負け犬より泥棒猫派だから(ちょっと違う?)。だけど本当寒いとこなんかまっぴらゴメン被る。
「瑩、そんなにゴロゴロしてると猫になるよ。」
デスクで書類整理をしていた恭弥が呆れたように僕を見てきた。
『えー?それなら僕は大歓迎!一日中お昼寝し放題。皆から可愛がられて僕幸せにゃん。』
「……………」
『恭弥シカト?…別にいいもーんだ。あ、草壁。蜜柑もう一個追加!』
「しかし、瑩さん。蜜柑20個はさすがに食べ過ぎかと……」
『いいのいいの。冬と蜜柑はつき物だよ。いいから早く持ってきて!そんでむいて!』
「……瑩、そんなに蜜柑食べると肌が異常な程黄色くなるよ。」
『そこらへんは大丈夫。小さい頃30個位食べても僕は平気だったから。あ、でもツナはヤバかったっけ。僕の真似して食べまくった翌日は黄疸みたく真っ黄色になっちゃって、奈々ママが慌てて病院に連れて行ったことがあったんだ。アレはマジウケた。』
「……。たぶん、君の体が異常なんだね。仕方ない。草壁、蜜柑あと一個だけ渡していいよ。」
「わかりました。」
『わー。ありがと恭弥ー。』
そして、僕は草壁にむいてもらった蜜柑をパクリと食べきった。
『…恭弥ー』
食べ終わった僕には、何もすることがなかった。さて困った。暇だ。
『恭弥ー、僕暇。』
「………」
『ひーまひーまひーまひーま。』
「………」
『暇暇暇暇暇暇暇暇暇―――』
「草壁。」
「……。はい。」
「瑩が煩い。君が相手してあげなよ。」
『えー、恭弥は?遊んでくれないの?』
「……。見て分からない?君と違って僕は忙しいんだ。草壁で遊んでて。」
仕方ないなーとブツブツ言いながらも、僕は草壁とトランプをすることにした。とりあえず、トランプと勝者の賞品としてのお菓子(カントリートーム袋詰め)を草壁に用意させる。
勝負は三回と決めた。総合勝者がお菓子をゲットできる。
まず、一回戦 神経衰弱
草壁はエースとクイーンをめくった。つまりはハズレ。次は僕の番だ。
『フッフッフ…僕の記憶力と素晴らしき直感を舐めるなぁぁー!!』
めくった二枚はエース。次をめくればクイーン。草壁がめくったクイーンをめくって二組を揃えた。…え?これで終わりかって?ふっ、まだまだだね。
「……瑩さん取りすぎです。」
『えー、だって当たっちゃうんだもん。』
とりあえず僕は軽く十組位揃えると草壁と交換してあげた。その後も…言わずもがな僕の勝利。
二回戦 七並べ
一枚、一枚と順番にカードを置いていく。
『なんか地味。二人だとつまんなくない?コレ。』
そして地味に草壁が勝った。
三回戦 ババヌキ
「…こっち…ですかね?」
『……………』
「それとも…って瑩さん顔に出過ぎですよ。こっちがハートの3ですね!」
草壁は僕の表情を見ながら二枚のうち右のカードを引いた。結果は………ケケケと笑う魔女。僕もジョーカーと同じようにケケケと笑った。
「………」
『甘い…甘いよ、草壁!ミロに砂糖十杯入れて飲んだ時の味くらい甘いね!この女優ヒカリ様を舐めるなー。――――そんでそんで草壁のダイヤの3ゲット!ってことでこのカントリートームは僕のものね。』
ババヌキでは僕が勝った。散々草壁にお菓子を見せびらかしてパクリと食べる。
『ん?』
口の中に甘いものが広がる。だけど、食べていくうちに身体の内側が熱くなっていくのがわかった。なんだコレ?そう思った瞬間、僕の体から煙が出てきてボンっと音が鳴った…気がした。
―――――――…
「
い、委員長ォォ!……グハっ!」
草壁が大声で叫んだ瞬間、顔面に雲雀が投げたトンファーが勢いよくぶつかる。不機嫌丸出しの雲雀は、草壁を睨みつけていた。
「煩いよ草壁。僕の仕事を邪魔するとはいい度胸だね。そんなに咬み殺されたいのかい?」
「し、しかし、これを見てください!瑩さんがお菓子を食べた途端…」
『…ミィー』
ソファーの上には金色の毛で覆われた手の平程度の大きさの子猫が座っていた。
「…………」
「………あの、委員長?どうしましょうか?」
子猫を見たまま動かない雲雀に草壁は怖ず怖ずと尋ねる。その間にも子猫はクワァーと小さな欠伸をしていた。
『…ニ?』
「………。」
雲雀は片手で子猫を抱くとクスリと笑う。もはや、金色の子猫の虜になっていた。
「(委員長が笑ったー!?も、もしや瑩さんをこのまま飼う気なんじゃ…)い、委員長!…早く瑩さんを元に戻してあげなければ…」
その瞬間、ドガーン・ドスンと言う音がグランドから聞こえてくる。雲雀は(草壁に投げて)落ちたトンファーをしまうと、子猫を抱き上げたままグランドへと向かっていった。
――――――…
雲雀がグランドへと出た瞬間、雲雀の靴にラジコンへと変化したレオンが当たる。雲雀はそれを子猫を抱き上げた手と反対の方で掴んだ。
「ひ、雲雀さん!?(…な、なんか子猫抱えてるし!)」
「やぁ。」
急いでやってきたツナは、休日の学校ですら雲雀がいることに心底驚いた。
「なんで雲雀さんが……しかもレオンを雲雀さんが捕まえたってことは…」
「どうやらこの勝負は雲雀の勝ちみてぇだな。」
ツナが一人焦っているとリボーンがやってくる。リボーンの登場で雲雀は機嫌を良くするが、反対にツナはリボーンの言葉にショックを受けていた。
「やぁ、赤ん坊。」
「ちゃおっす。」
雲雀はレオンをリボーンに返した途端、腕の中にいた子猫が身震いをして雲雀の懐に潜っていく。それを見た雲雀はため息を吐きながらも背中を撫でていた。
「…瑩、くすぐったい。」
『ミィー…』
「え!?(今雲雀さん、瑩って…)その子猫って…しかもその金色の毛!え、もしかしてヒカリ!?」
『ミィー』
肯定するかのように子猫は鳴く。言い当てたツナの言葉に雲雀は目を丸くした。瑩の名前を言ったのは雲雀だが、それだけで見破られるとは思ってなかったからだ。
「…赤ん坊に貰ったお菓子を食べたらこうなったんだけど。」
ツナは雲雀の言葉に勢いよくリボーンを振り返った。
「どういうことだよ、リボーン!!!」
「ボンゴレで開発したキャットクッキーだぞ。食べた奴は猫になるんだ。まさかアイツが食べるとはな。」
「(な!?クッキーで猫!?)そもそもなんでそんなものを雲雀さんに!?っつーか、ヒカリを早く戻せよ!」
「すぐには無理だな。だが、日没になればすぐに戻るはずだぞ。」
「ふーん…なら、それまで瑩は僕が預かるよ。」
リボーンに文句を言っているツナを余所に雲雀はポツリと呟く。その言葉にツナは顔を青ざめた。
「い、いや。雲雀さんにそこまで迷惑は…」
オロオロとするツナ。雲雀はそれを見て、ニヤリと笑った。
「沢田綱吉、僕に意見するの?」
ジャキーンとトンファーを構える雲雀に、ツナはヒィィィと悲鳴をあげる。今にも雲雀がツナを咬み殺そうとした時、雲雀の懐にいた子猫が鳴いた。
『ミィ…ミィ…』
「瑩、寒いの?…ハァ、分かったよ。応接室に戻ればいいんでしょ。……。それと沢田綱吉、今度グランドで騒いだら咬み殺すから。それじゃ、またね赤ん坊。」
「ちゃおちゃお。」
ガサガサと爪の立っていない肉球で雲雀の頬を摩って催促する子猫。雲雀はトンファーをしまうと、唖然としているツナをそのままに応接室へと戻っていった。
――――――――…
「良かった…それでは日が暮れれば瑩さんは元に戻られるんですね?」
「僕に二度も言わせる気?」
「い、いえ。…あの委員長?一体何を――」
草壁の視線の先。頬杖をつきながらも、先程他の風紀委員に買ってこさせた猫じゃらしを片手に子猫を弄んでいる雲雀。二人(今は一人と一匹?)とも目が真剣で、草壁は近寄れないでいた。
『ミ!』
猫じゃらしをヒョイと上げて子猫の突撃をかわす雲雀。雲雀のデスクの上で子猫はドタリと倒れた。
「…見てわからない?瑩を鍛えているんだよ。」
『ミ"ィー!』
「そう…悔しいのなら、もっと相手の動きを見なきゃダメだよ、瑩。」
クスリと楽しそうに笑う雲雀に草壁は苦笑することしかできなかった。
ヒョイ
「まだまだ甘い。」
ヒョイ
「…今のは惜しかったね。でもまだ遅い。さぁ、もう一度来なよ。」
ヒョイ
「これくらいでバテるの?早くコレを捕まえてみなよ。」
ヒョイ
「ダメだね。もう一度だ。」
……endless
散々特訓して(遊んで)半日後、無事ヒカリは元の姿に戻ることができたのだった。ヒカリの素早さ・反射神経が10UPした。
(リボーン!なんで雲雀さんにそんな物渡したんだよ!)
(雲雀は意外と動物好きだからな。どうせ贈るなら雲雀が喜びそうなアレを、と思ったんだぞ。それと中々面白そうなクッキーだったからな、実験だ!)
(言い切るな!!)