おいでませ、マフィアランド
せっかく来たマフィアランド。
楽しまなくちゃ損でしょ。




『あー、楽しかった!高いところってサイコー!』

ヒカリ達が今まさに乗ってきたものは、ジェットコースター。このマフィアランド一押しのアトラクションであり、その宣伝文句に違わないスリルさが最高だった。


「はひー、とってもデンジャラスなアトラクションでした。」

「ハハ、中々面白かったな!」


途中で合流した獄寺を含めた一同は、広場の芝生で一休みをする。奈々ははしゃぐヒカリを見ると微笑ましそうに笑った。


「ヒカリちゃんは、本当に高い所が好きね。赤ちゃんの頃から好きだったものね。」

『そうだっけ?』

「そうよ。」

「あ!ママン、僕、ヒカリ姉の小さい頃の話聴きたい!」


奈々の言葉にフゥ太は瞳をキラキラさせて懇願した。

「俺も、ヒカリの話聴きたいッス。」

「あ、野球馬鹿のくせにでしゃばりやがって。お母様、この獄寺隼人にも聴かせてください!」


フゥ太の言葉を聴いた一同は、興味津々で奈々に近寄る。


『え、皆本気?』

「あらあら、じゃあ、ちょっとだけね。」

『え、奈々ママ、言っちゃうの!?』


「ヒカリちゃんはね、泣き虫さんだったわ。」


『…………』


「ヒカリちゃんが泣くとね、お父さんやオレガノちゃん.......お父さんの職場の方が中庭に抱いて連れていって、よく高い高いをしたのよ。そうすると、ヒカリちゃんはすぐに泣き止んでいたわ。ヒカリちゃんは覚えているかしら?」



『確か、二階の部屋にいるはずのツナを高い高いの最中に同じ目線で見ることができたアレでしょ?……あれ?もしかして、あの時、何気死亡フラグ立ってたの?』


「「「…………」」」


「な…なかなか…ワイルドなあやし方なんですね。」



固まった空気を戻すように、獄寺はフォローをして奈々に話をつなげた。

「ふふふ。でも、やっぱりヒカリちゃんを泣き止ませる名人さんはツっくんね。ヒカリちゃんが泣いているとね、よく手を握っていたわ。そうすると、ヒカリちゃんはピタリと泣き止むの。」


「はひ、素晴らしい兄妹愛ですぅ。」


『………………』




「そうなのよ。その後は…きっと泣きつかれちゃったのね。二人仲良く眠っていたわ。」



奈々の話が終わると、「ツナはやっぱり凄い」という話で盛り上がった。



「そういえば、十代目遅くないですか?」


獄寺の言葉にハッと皆顔をあげる。確かに、アトラクションや昔話に夢中になりすぎて、ツナ本人のことをすっかり忘れていたのだった。


『……迎えに行ってくる。』


自分の過去の話をされたヒカリは、なんだか恥ずかしくて、それを紛らわせるように立ち上がった。


「俺も行きます!」

「じゃあ、俺も。」

「野球馬鹿は引っ込んでろ!」


他にもハルたちが行きたいと申しでたが、『場所は大体目星つけてるし、すぐに戻るから。』と言って、結局はヒカリ・獄寺・山本の三人で行くことになった。








―――――…



ガタンガタン


今列車の中にいる。裏マフィアランドに向かっている途中だった。


「それにしても、ヒカリすげーな!ツナの居場所が分かるって、やっぱ双子だからか?」


「ヒカリ、そうなんですか!?」


『…秘密。』



ツナの居場所が分かる訳。
もちろん、漫画を読んで知っているからだ。双子うんぬんの力とかじゃない。僕たちにはないけれど、そういうのはテレビや小説とかにはよくある話。一方が怪我したところが、もう片方も同じところに痛みを訴えたり…離れた所でも、一方の言葉を片方がキャッチしたり…とか。 確かに、僕が迷子になったりするとよくツナは見つけ出してくれていたけれど、それは双子だからというよりは、超直感のおかげのような気がするんだ。そう思う僕は、夢がないのかな?


だけどね、これだけは言えるよ。ツナがどんなに怪我しようとも、双子だけれども僕にはなんの影響もない。リボーンの日々の無茶のおかげで立証済み。それは、僕が本当は存在するはずのないポジションにいるから?ツナの双子妹なんて本当はいない。だとしたら、双子うんぬんの影響がないのは当たり前……か。そう考えたら、なんだか虚しくなってきた。
おかしいよね。ツカサちゃんに逢って、早く元の世界に帰りたいと思う半面、それでもこの世界に認められたいと心のどこかで願っている僕がいる。どこかの片隅にツナの妹として存在したいと願っている僕がいる。



『……矛盾。』



「「…ヒカリ?」」



『あ、ううん。なんでもないよ。早くツナを見つけて、アトラクションの続き乗ろうね!』




その想いに気づきたくなくて、僕はそっと気持ちに蓋をした。







列車が止まり、ヒカリたちは順番に降り立つ。周りは自然だらけで、アトラクションのある表のマフィアランドとはかなり違う印象を受けた。


「な!ヒカリ。それに獄寺くんと山本も!?みんななんでこんな所に!?」


すぐ、近くにいたツナは体中の至る所がボロボロだった。


「なんだコイツらは?」

「丁度良い、コロネロ、コイツらもついでに鍛えろ。」



リボーンの容赦のない言葉に、ツナは青ざめながらもヒカリたちに逃げるように促す。

その瞬間、突如として島内に《敵襲ー敵襲ー》という警報が流れた。

『敵襲だって。ツナ、どうする?』

「どうする…って。」


カルカッサファミリーによる襲撃にコロネロとリボーンは眉を潜める。
カルカッサファミリーは麻薬を扱う敵対勢力だと説明してくれた。だけど今回はコロネロがいる分、心強いだろう。
ツナはそう考えていたのだが、今は丁度心地良い昼下がりだった。それはつまりコロネロとリボーンのお昼寝タイムの始まりを示している。


結局、停電のために列車は使えず、ヒカリたちは線路を歩いてマフィアランドに引き返すこととなった。




「出口だ!」




長い長いトンネルの先には、大きな大きなお城がそびえ立っていた。



「なるほど、ここにつながっていたのか……このマフィアランドの象徴、マフィア城に!」



目を輝かせながら隼人は呟く。城には多くの人が集まっていた。僕たちは無事に奈々ママたちと合流する。ハルたちは海で泳いでいた最中だったようで、ランボやイーピンは、ツナに「もっと泳ぎたかった。」と文句を言っていた。


「さ、ヒカリちゃん、私たち女性陣はお城の中でご飯を作るんですって!行きましょ!」


本当は僕もツナたちと一緒に戦いたかったけど、イベントか何かだと信じて疑わない奈々ママを悲しませたくなかったから、従うことにした。

背後で閉まる扉の奥から、「ボンゴレで文句あっか?」と威勢の良い隼人の声が聞こえて、思わず笑みがこぼれる。さ、僕も頑張ろうっと自分に喝を入れた。



『ーーへぇ、ここが。』


僕たちが案内された厨房は広々としていて、さすがというか何と言うか管理が行き届いている。掃除もぬかりなくされていて、清潔感があった。



『奈々ママ、何作るの?』


「そうねーー…カレーなんてどうかしら。栄養満点よ?」


僕や奈々ママの言葉を聞いていたのか、多くの女性を引き連れたお姉さんが目の前に現れる。


「待ちなさい、この食事作りの指揮は、アジア勢力を率いるネロファミリーのボスの娘である私がとります。あなた方は下がっていただけますか?」


続いてぞろぞろとやってきたのは、ゴージャスな宝石を至るところにつけている中年のおばさんを先頭とする女性陣。


「何をおっしゃっているの?この場の指揮をとるのは、伝統・格式を合わせ持つベッチオファミリーのボスの妻の私よ!」

それを聞いた、多くの女性が集まるもう一つのグループも近づいてきた。先頭にいるのは僕らとそう変わらない年頃の女の子。


「待ってください、ここは今ニューヨークで一番力をつけているヌーボファミリーのボスの妹である私が指揮をとらせていただきます。」


どこかで聞いたようなセリフに、僕はため息をはく。奈々ママは、あらあらと困ったように苦笑していた。


「ハっ、くだらないわね。」


いい加減怒りの絶頂に登りつめていたビアンキが厨房の扉をガンと殴る。そのせいで、扉が少しへこんでしまっていた。



「……あら、随分と態度がでかいじゃない。」



「そうね、あなたの所属するファミリーの名前を聞きたいわ。」



「どうせ大したことないファミリーでしょうけど。」



一瞬静まった後には、ビアンキにむかってあちらこちらからの殺気が飛んできた。


「はひ、なんだかとってもデンジャラスです。」


顔を引き攣らせたハルが、緊張からランボをギュッと抱きしめる。


「あららのらー、ハル怯えてやがんの。だっせーじょ。」


「な、そんなことないです!これもツナさんの妻になるべく課せられた試練。ハルはそんなものに負けません。」


ハルの言葉にビアンキはニコリと笑う、が次の瞬間には鋭い瞳で周りの女性たちを睨みつけた。



「ヒカリ!」


『え……はい。』


なんだか嫌な予感がさっきからするのは気のせいだろうか。
とりあえず、僕はビアンキに促されるままに彼女たちの前に出た。



「なに?この小娘。」


「どうせ、どこぞの馬の骨でしょ。」


「さ、お嬢さん、あなたのファミリーをおっしゃって?」




『……………』



「ボンゴレよ。
その子はボンゴレ十代目のボス、沢田綱吉の双子の妹、沢田瑩!これで文句あるかしら。」



辺りがザワザワとざわめく。


「まさか、あの方が?」


「噂のボンゴレ十代目ボスの妹君!?」



次の瞬間には、彼女たちの態度がガラリと変わった。


「し、失礼いたしました。次期ボンゴレの妹君とは…」

「ボンゴレは、伝統・格式・規模…それのどれをとっても別格ですわ。」


「どうかこの場は、貴女様が治めください。」


先程の三人の女性を始めとする多くの女性たちは、礼儀正しく頭を下げてくる。ビアンキを見ると、満足そうに笑っていた。



『やっぱ、隼人とビアンキは姉弟だね……まるですることが一緒じゃん。』



僕は遠目を見ながらポツリと呟いた。





――――――――…


奈々ママ指導の下、出来上がったカレーは本当に美味しそうだった。ランボ、イーピン、フゥ太たちは、早く食べたいと奈々ママにねだっている。



「ツナさんたち大丈夫でしょうか?」



出来上がったカレーを大広間に運びながら、ハルは心配そうにポツリと呟いた。
僕が口を開こうとする前に大広間の扉が開くと、三人の男性が笑顔で入ってきた。



「「「次期ボンゴレが率いる我々連合軍の勝利です!カルカッサファミリーは全滅。残党も引き上げを始めています。」」」



その瞬間、大広間は歓声に包まれた。そして、それから間も無くツナと合流を果たした僕ら。皆で出来上がったカレーを食べたのだった。



(オレ、絶対マフィアのボスにはならない…)

(ツナ、自分だけ被害者ぶらないでよね。僕だって、たかが料理で次期ボンゴレボス妹としてひざまづかれたんだから。)


(な、ヒカリも!?)


(そうだよ。キッチンは女の戦場とはよく言ったものだよね。)


(………ハハハ。)


こうして、僕たちの短いバカンスは無事に終わりを告げたのだった。

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