歯車が動き出す
――――――――…


あの肝試しが終わって学校が始まってからの数日間、僕は学校に一度行ったふりをした後ですぐに家に戻ると常にフゥ太のそばにいた。


奈々ママにはなんとかごまかしているし、ツナには恭弥から呼び出されているから授業にはしばらく出られないことを伝えていた。(ちなみに宿題はツナに出してもらい、テストだけは受けた。)もちろんその理由は、ただ一つ。チャンスを逃さないため。いつ犬たちが来てもいいようにラケット(ヒカリのラケット)は常備している。


そんなある日、フゥ太が並盛のあちこちをランキングしたいと言うから僕もそれに着いていくことにした。


「見つけた…ランキングフゥ太…」

現れたのはバーコード眼鏡の柿本千種。


「ん?なんら、その女。」


呂律が微妙に回っていない目つきの悪い城島犬。


ようやくお出ましだ。すぐに僕は予め用意していたメールを送信した。



「ヒカリ姉…」


フゥ太が不安そうに僕を見上げる中ラケットを構えると、犬や千種がピクリと反応する。うん、なかなか面白い反応。



「なんらお前、女のくせにオレらとやる気びゃ?」


『…女性差別ハンターイ!
それに僕はなるべく穏便希望だよ。フゥ太をどうするの?』


僕がヘラリと笑うと、犬は舌打ちをし、一方で千種は面倒…と呟いていた。


「骸様のところにつれていくんら!!邪魔するならお前を殺す。」


「待って!」



この場にフゥ太のソプラノの声が響いた。


「ぼく…行く。
ヒカリ姉が殺されるの見たくない。」


フゥ太の言葉に驚いたのは僕の方だ。だって、最初の頃のフゥ太は他人に守られようとしていたんだから。それなのに今は僕を守ろうとしている。…だけど、やはり怖いのかフゥ太の全身は誰が見ても明らかに震えていた。僕は、そんなフゥ太を見遣るとポンポンと軽く頭を撫でてやる。



「ヒカリ姉。」


『フゥ太、僕は大丈夫だよ。……犬に千種、だよね?フゥ太を連れて行くんなら僕にも骸に会わせて。ただし傷のある偽者の方じゃなくてクフフの方ね。』



「なんで骸さんのこと……それに、オレ達の名前まで!
お前何が目的らびょん!」


『だーから、骸に合わせろって言ってんじゃん。頭悪いわんころだな。さっさと僕を連れてけコノヤロー。じゃないと…犬が骸のことパイナップルって言ってらことばらすびょん。』


「わんころ言うら!それにオレの真似するら!大体、オレは骸さんのことパイナッポーっては言っらけど、あからさまにパイナップルっては言ってらいびょん!」


犬の自白に千種はため息をついた。


「犬…面倒だから、この女も一緒に連れていこう。とりあえず暴れられたら面倒だからロープで―――」



ごめん、フゥ太。
僕は未来を変える気はない。
だから、君を助けることもしない。それは僕の役目じゃないから。僕はただ、自分の目的のために動く。


――――――――…



黒曜ランド。

「なー柿ピー、オレも見たいびょん。」


「ダメ、面倒になる。」

「…ちぇ」


犬と千種は不穏な音や声が響き渡るある部屋の前で待機していた。必然的にヒカリたちもそこで待機となる。ここに来るまでに、フゥ太のランキングブックから並盛ケンカランキングをちぎりとられてしまっていた。そして、しばらくすると部屋から一切の音がしなくなる。それを見計らって犬と千種は部屋に入って行った。もちろんヒカリたちを引きずりながら…

「ちーす、終わりました、骸さん?」


骸は微笑して振り返った。
床には黒曜の生徒がボロボロで倒れている。


「えぇ、今ちょうど。あなたたちもここで見ていればよかったのに。」


「オレもそうしたかったんれすけど、柿ピーに止められたんれすよ!」

「犬がいるとよけいなことをしかねない。」


「キーーーっ、またそういうこと言っちゃうわけ?ムッカつくんれすけど、このダメ眼鏡!」

「…やめてくれないか、その呼び方。」


「まあまあ、二人とも。」


険悪な二人を、骸がなだめる。


「すみません、二人には退屈させてしまって。」

「いえ。こちらでも収穫がありました。」


ドサっ。


『痛ー!レディーはもっとデリケートに扱えコノヤロー!』


千種が無造作に放り出したのは、ロープで拘束された幼い少年と…犬たちと同い年くらいの少女。顔立ちは文句なく整っているのだが、何分口が悪い。


「ランキングフゥ太。ボンゴレ10代目と顔見知りのようです。
この女は…なぜかオレ達の名前を知っていて…骸さんと話がしたいんだとか。」


「ほう…僕に――?」


骸はヒカリを一瞥するとクスリと笑い…すぐに向き直ってフゥ太に嬉しそうに顔を近づけた。


「ランキングの正確さでイタリア中のマフィアに一目置かれているランキングフゥ太……その情報なら間違いはない。」


フゥ太は、おびえながらもその目に強い意志をこめて骸を睨みつけた。骸はさらに楽しそうな笑みを浮かべ、犬と千種に視線を移す。

「ここでの遊びはもう終わりです。この子から情報を取れ次第動きますよ。」

「おっ!キタキタびょーーーーん!」


犬がやる気満々という風にその場で宙返りをキメてみせる。千種も眼鏡の奥に静かながら強い戦意をのぞかせる。そして、すぐに骸によってフゥ太はマインドコントロールをかけられた。


「さて、僕に用があるんですよね?まず、あなたの名前を伺っても?」

骸は何食わぬ顔で僕に笑みを向ける。

『…瑩。芥川瑩。単刀直入にいくよ。骸はこれまで輪廻を廻ってきた、そうだよね?』


「…………」

骸からの答えはなし。
僕はその無言を肯定ととって話を先に進めた。


『だったら、異世界…例えば、漫画の世界に行ったことある?自分が前の世界で死んだわけじゃないのに、いつの間にか違う世界に生まれ落ちたことは?』


僕の言葉に骸は大きく目を見開いた。


「お前、何言ってるびょん?頭おかしいら。」


『ワンコは黙れ。僕は真剣なんだ。』


「誰がワンコら。骸さん、マジコイツムカつくれす!殺っていいれすか?」


『ねね、骸。ワンコの奴、また骸のことパイナポー言ってたよ。』

「だから、パイナッポーだってんらろ―――あ、骸さんこれは違うんれす。コイツが…」


「クフフ…犬。あなたに後で少々話しがあります。芥川瑩、あなたの質問に関してはノーコメントです。」


『………でもさ、骸。僕と同じ質問を、誰かにされなかった?』

「…なぜ、そう思うのですか?」

『ノーコメント。』


シレッと言い放った僕を見て、骸はクハハハと笑い出した。


「ではこちらから質問です。
僕たちの名前を知っていたあなたは、マフィア関係者…ですね?」

確信めいた骸は僕にむかって妖笑した。途端に犬と千種の殺気が向けられる。


『……だとしたら?』


「あなたを生かしてはおけない…と言いたいところですが、僕はあなたに興味が沸いた。少々【あなた】を見させていただきます。」


『………は?』


それから数日後、並盛中の風紀委員が何者かに襲われるという事件が多発するようになる。そして同時にヒカリとフゥ太が行方不明となったのだった。



――――――――…

土日ともヒカリを捜し続けた。だけど、どうしても見つからない。ツナは心配で心配で仕方なかった。

「並中大丈夫?」


台所へ行くと、心配そうにツナに尋ねる奈々。だけど、ツナにとってはそんなことよりもヒカリのことで頭が一杯で…ヒカリの心配を一切していない奈々に眉を潜めた。


「母さん!ヒカリが行方不明の時に何言ってんだよ!?ヒカリが全然帰ってこないなんて…」


「行方不明?あら、言ってなかったかしら。ヒカリちゃんね、暫く友達の家で勉強合宿しているそうよ?学校にも近いお家らしいから心配しないでっていうメールが。」


「…………は?な、なんだ俺はてっきり…」

「ツッ君は心配性のお兄ちゃんね?」


「母さん!」

「…ツナ、ちょっと来い。」


話しが終了したと同時にリボーンに引っ張られる。向かった先はヒカリの部屋だった。リボーンはそのままヒカリの部屋に入っていく。


「お、おい。いくらなんでも本人の留守中に…」


ヒカリの部屋から、リボーンは一枚のメモを持ってきた。



【ツナへ
もし、僕が勉強合宿に行くっとメールで奈々ママに伝えた時は暫く留守にしまーす!でもでも僕を探そうとはしないで。僕は大丈夫だから。】


「……………はぁ!?留守って…ヒカリの奴何考えてんだよ!?」


「この土日で並盛中の風紀委員8人が重傷で発見されたんだぞ。やられた奴は何故か、歯を抜かれているんだ。」

「それって不良同士の喧嘩だろ?ヒカリとなんの関係があるんだよ。」

「…さぁな。」


とにかく、ツナは支度を済ませると家を出た。しかし、いつもと違ってあちこちに風紀委員が立っている。明らかに異様な雰囲気だった。

「やっぱり不良同士の喧嘩なのかな…?」

「違うよ。」


会話に突然介入してきたのは雲雀。自分の独り言に返事が返ってきてツナはものすごく驚いた。反対にリボーンは呑気に挨拶をしている。


「身に覚えのない悪戯だよ。ところで、瑩はいつまで学校をサボっている気なんだい?」


「……え!?瑩はずっと雲雀さんと一緒にいたんじゃないんですか!?毎日応接室に通っているって聞いていたんですけど…」


「休み明けからは一度も来てない。何度連絡とっても繋がらないし、そろそろ咬み殺しに行こうと考えていたんだよ。」

「(ひぃぃぃ!)い、今、ヒカリは行方不明になっていて…」


「……行方不明?」


「は、はい。何か心当たりは―――――?」


緑ーーたなびく並盛のーー大なく小なく並ーーがいいーー…


響き渡る並盛校歌。着うたの鳴る携帯を取った雲雀にツナは心の中でつっこんだ。

「君の知り合いじゃなかった?笹川了平やられたよ。」


――――…

病院へとかけつけたツナは思い知ることになる。これは、不良同士の喧嘩などではなく…並中生を狙った犯行だということに。そして、その犯人を先程会った雲雀が咬み殺しにいったということを聞かされた。それは並中生を大いに喜ばせたが、ツナは喜びと共に奇妙な胸騒ぎを感じていた。


「ヒカリ…」

レオンの尻尾のちぎれる音が不吉に響いていた。

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