確かにあった思い出の場所
ツナ達はすでに廃墟となっている黒曜センターにたどり着くとビアンキのポイズンクッキングによって門の鍵を溶かした。
その瞬間全貌露わになったセンターを見てハッとするツナ。


「俺…小さい頃、ここに来たことがある。」













初めて連れてきてもらった黒曜センター。動植物園やショッピングモール、映画館が集まった複合娯楽施設。



すっごく楽しくて。
すっごく面白くて。



綺麗な夕焼けが出る時間になるまで夢中になって遊んだ。


父さん、母さん、それにヒカリと一緒に遊べたことが嬉しかった。









けど、当時まだオープンして間もなかったそこは人混みが多くて、何かの拍子で父さん母さんとはぐれてしまった俺はドーム状の植物園の前でうずくまってメソメソ泣いていた。





心底心細かった。
もう一生家に帰ることなくこのまま独りぼっちだったら、自分だけここに置いていかれたら…そう思ったら涙が止まらなかった。










『……こんなとこにいた。』







聞き慣れた声が聴こえて顔を上げる。そこには呼吸荒く肩を上下に動かして汗びっしょりになって立っている双子の妹、ヒカリがいた。







『奈々ママ達心配してる。早く戻ろ。てか、いつまでもメソメソしてないでよね。ツナは男の子なんだから。……僕達の家に帰るよ。』





早口でぶっきらぼうに手を差し出してくるヒカリ。その小さな手が心強くて、一生懸命俺を捜してくれた姿が少し気恥ずかしくて、でもヒカリを見たら心底安心して、俺はギュッとヒカリに抱き着いた。
わわ、なんだよ一体!?と焦っているヒカリをお構いなしに、俺はわんわん泣いた。





"僕達の家に帰るよ"


その言葉がとても嬉しかった。














「なら、お前が案内しろ。」




リボーンの言葉にハッと我に返る。言い放たれたその意味をやっと理解するとツナはサーっと血の気が引いた。





「む、無理無理無理!連れてきてもらったのだって一度きりだし、何年も昔の話だし!」


「いいから行け。」




リボーンの非情の言葉にツナは渋々前に進んだ。



「…確かこの辺りにドーム状の植物園があった気が――」


「ドーム状なんてどこにもないじゃない。」


ビアンキの痛烈な一言。


「……ん?」






そこで発せられた山本の言葉に一斉に立ちどまった。しゃがみ込んでいる山本の目の前には大きな獣の足跡。見渡せばあちらこちらにえぐられている木々。





「や、山本!」






次の瞬間、すでに息絶えた大きな犬が次々と山本に襲いかかってきた。それを山本はどうにかやり抜けるも「かかったびょん。」という声が地面の下から聞こえるとすぐに山本の真下の地面が割れ、山本は暗闇に引きずり落とされていった。






「ツナの記憶は正しかったみてーだな。」






リボーン曰く、ドーム状の植物園は土砂に埋まっていたらしい。つまりツナ達が立っているのは屋根の上。山本はその屋根から植物園の中の地面まで落ちてしまった。





ぽっかりと空いた地面からツナ、リボーン、ビアンキ、獄寺が覗きこむ。わずかながらの光に目を凝らすと、そこには尻餅をついた山本が苦笑していた。どうにか無事だったことに一同は安堵する。
しかし、地面下の暗闇に何かを認めたツナは驚いて声を上げた。






「や、山本!何かいる!け、獣!?」







ツナの声に反応するように暗闇から出てきたのは人間。黒曜中の緑色の制服を身に纏った城島犬だった。犬が何かを山本に言った後、上を見上げて穴から覗きこんでいるツナ達を見ると口角を上げた。






「そこの人達お友達ー?待っててね、順番に殺ったげるから。」






そう言った途端、犬は山本に飛びかかった。咄嗟に山本は山本のバットを使って受け止めるも、犬の勢いのせいでバットが折られてしまう。









「……。なるほどな。マフィアごっこってのは手加減なしに相手をぶっ飛ばしていいっつーことな。―――そういうことな!」






声色低くギッと犬を睨みつける山本。






「アイツ、あー見えて負けん気強えーからな。バット折られて、心中穏やかじゃねーぞ。」







リボーンの言葉がが言い終わるか終わらないうちに、再び犬の攻撃が始まる。コングチャンネルに歯を差し替えた犬は、山本を掴むと思い切り投げ飛ばした。激しい音を立てて、山本の身体が壁にめり込む。






「山本!」



「武器を持たない山本は明らかに不利ね。」



「やめておけ。山本まで生き埋めになるぞ。」






ビアンキの言葉に獄寺がダイナマイトを構える。が、リボーンの言葉に渋々武器を持つ手を降ろした。




どうにか持ち直した山本は、今はウルフチャンネルの犬を相手にしている。先程つけられた犬の死臭をべっとりとつけられていた山本は、犬のウルフの特性によって暗闇にも関わらず的確な攻撃を仕掛けられていた。逃げてばかりの山本に痺れを切らした犬は「持久戦?」と嘲り笑うが、それを聞いた山本が苦笑する。







「いや…そういう訳じゃないんだが……俺にはマフィアごっこの他にも大切なもんがあってよ。」






それを聴いたツナの脳裏に浮かぶのは、秋の大会にむけて日頃から一生懸命野球の練習をしている山本の姿。レギュラーを勝ちとった、と嬉しそうに報告してくれた山本の姿。けど、今回のことでまた怪我をしてしまったら……






「…そうだよ、山本には大事な大会があるんだ。山本をこんな所に連れてくるんじゃなかった。」







頭を抱えるツナに「ならお前が行け。」と非情にもリボーンはツナを穴に突き落とす。



「って、何やってんスかリボーンさん!」





リボーンの行動に青ざめた獄寺は思わずツッこみ、ツナは悲鳴を上げて落ちていった。




突然落ちてきた見るからに弱そうなツナに、犬は山本から標的を変更する。「いったらっきまーす」と言いながら慌てふためくツナに襲いかかった。






ゴン






犬の頭に当たったのは、山本が投げた小石。「お前の相手は俺だろ?」と不敵に笑う山本にイラついた犬はチーターチャンネルに変えると勢いよく山本に襲いかかった。





ガブリ。







鋭いチーターの歯に噛み付かれた山本の左腕。血が勢いよく溢れだして、犬は得意げな顔をしてみせるが―――






「お互い様だ。」






山本の右手には折れたバットの柄。それを思い切り犬の頭に叩きつける。大ダメージをくらった犬はトサリと地面に倒れた。





「あ、あいつ…はなっから腕一本やるつもりで……」





獄寺の呟きを余所にツナは山本の腕の怪我を見ると勢いよく土下座をする。






「ご、ごめん山本!俺のせいで…。野球があるのに!大会があるのに!」




ツナの言葉に山本は苦笑した。




「おいおい、勘弁してくれよツナ。――ダチより大事なもんなんてないだろ?」




山本はそう言うとニカリと笑った。

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