待ち合わせは独りぼっち?
−−−−…
目が醒めたとき、視界が白く染まっていた。
特有の匂い。ここは、病院?
「ヒカリ!良かった、痛いところはない?」
真っ先に覗き込んだのは沢田綱吉。通称ツナ。このREBORNの世界での、僕の、双子の兄。
「ホント良かったっス!!」
少し涙目になりながら僕の手を握りしめてくれたのは獄寺隼人。ツナの自称右腕の爆弾小僧。
「腹減っただろ?ヒカリの好きなプリン、買ってきたんだぜ!」
そう言って山のようなプリンを枕元に積み上げていったのは山本武。ツナの友達、野球大好き爽やか少年。
「……。ヒカリ、お前どこまで記憶がある?」
「なっ!リボーン!ヒカリはまだ目が醒めて間もないのにその話は…」
リボーン。唯我独尊史上最強最悪の家庭教師。
「だからこそだぞ。テンション下がる話しはさっさと終わらした方が良いだろ?」
「だけど!!」
『いいよ、ツナ。僕もはっきりさせたいから。』
視線を感じて、そちらを見やれば個室の出口付近で背を預けていたのは雲雀恭弥だった。
「…ヒカリ...」
『六道骸は?』
「.........やつは牢獄にいる。」
リボーンの静かな答えに、視線を下げて、そう、とだけ返した。
それから、一息をついて話し始める。
『覚えてるよ。自ら六道骸のアジトに行ったこと、ツナや恭弥と戦ったことも。』
そう言うと、みんながゴクリと唾を飲み込んだ。恭弥も僅かにピクリと身体を弾ませていた。
『リボーン、、、僕、ずっと長い夢に囚われていた気がする。』
「..........。」
「..........夢?」
答えたのはリボーンではなく僕の片割れだった。
『うん。僕には二つ上の....大切な兄貴がいて、お父さん、お母さんもいた。大好きな友達と先輩がいて毎日テニスをしていた。』
「−−−−それが、ジロ兄と跡部司か?」
突然割って入ってきたのはディーノだった。側には彼の部下も控えている。
いつの間に入ってきたのだろうと不思議に思ったのだけれど、まずは頷いておいた。
『ある大好きな漫画を読むため、学校帰りに僕は確かに司ちゃん家に行ったんだ。けれど、司ちゃんはいなくて、気づいたら、ここにいた。』
周りがシーンと静まってるのを察して微笑む。
『わかってる。ありえないでしょ?僕の夢、だと思ってくれて良いよ。でも、まだその夢を非現実と認めたくなくて、ずっと、みんなを困らせていた。六道骸に個人的に会ったのはそのため。』
「なんで、よりにもよって六道骸?」
ツナの呟きに答えようとした際に、僕の言葉をリボーンは途切らせた。
「ヒカリ、お前。この世界の未来を知ってるな?」
疑問ではなく肯定。彼の言葉に一瞬頭が真っ白になった。みんなも驚きの声を各々あげている。
「..........もうこの際だ。全部話しちまった方が楽になるぞ。」
『........知ってるのは全部じゃない。でも、ある程度は、知っていた。リボーン、君がツナの家庭教師になることも、六道骸の存在も。これから起こりうる戦いのこと.......父親の本当の職業も。』
「「!」」
リボーンとディーノを見やれば、彼らはやや目を見開いていた。
『でも、少しずつズレてる。多分僕が存在していることで。だから、僕が知ってる未来がその通りになるとは限らない。』
「だが、本質は変わっていない。そうだろ?」
リボーンの言葉に頷く。
『細かなストーリーは変わってる。でも大元は変わっていなかった、と思う。フゥタのランキングの結果も後押しになった。だから、僕は骸に賭けた。彼なら、僕を元の世界に戻してくれるかもしれないと思ったから。』
「.............」
『そして案の定、彼は僕に夢を見せてくれた。優しくて、幸せで、とても残酷な夢。』
「残酷?」
『...........』
ツナの言葉に、僕はあの光景を思い出すと瞳を閉じる。どうしようもなく身体が震えてしまった。
そんな時、ふわりと身体をが浮かんだ。
横抱きにされたその先には学ラン。
「でも夢は夢だ。あいつに見せられていた夢にいつまでも囚われる必要はないよ、ヒカリ」
『........恭弥。』
「赤ん坊、もう話しは済んだ?僕は彼女と大事な話しをしないといけないんだけど。」
「もう少し待て。.........ディーノ。」
「ああ、わかってる。」
そう言ってディーノは苦笑を零しながら、僕の頭を撫でると病室の扉を開いた。
「「ヒカリちゃん大丈夫?」」
病室の中に入ってきたのは、ハル、京子ちゃん、ランボ、ビアンキ姐さん、イーピン。
どっと押し込んできた集団に僕は目を白黒させていたけれど、僕を抱いている恭弥の機嫌が急下降していくのを感じて慌てた。
『なんで、みんなが?』
「もう、心配したんだよ。突然学校来なくなったと思ったら、バナナの皮で滑って頭をうって入院していたなんて!」
バナナの皮?
「がははは、ヒカリったらマヌケなんだもんねぇぇ!」
「でも検査でも何事もなく目が醒めて良かったですー」
ハルの言葉だ。
『リボーン、、、ツナ、、、どういうこと?』
肩を震わせながら二人に問いかければ、ツナは頭をブンブン横に振っている。とすると、やっぱり元凶はリボーンか。
「仕方ねーだろ。オレ達に相談もなしに行動したお前が悪い。」
そう言われてしまえば、なにも言い返せなかった。
「ここでストップな。ヒカリも目が醒めたことで、これから検査がある。お前達は少し病室で待っていてくれ。ヒカリ、歩けるか?」
『え?あ、、うん。』
ディーノに言われて恭弥から降りようとするも、彼はなかなか僕を離してはくれなかった。
「まーこいつなら、いっか。リボーン。」
「お前に任せるぞ。」
「よし、じゃあ雲雀。そのままオレについてきてくれ。」
ディーノに指図されたのが気に食わなかったのか、眉間を寄せていたが今回ばかりは僕の検査ということもあり従ってくれているようだ。
病院の廊下を歩きながら最初に口火を切ったのは恭弥だった。
「ねぇ、どこに連れていくの?検査室があるのは反対方向でしょ。」
「あぁ、検査に行く前にヒカリに会ってもらいたいやつがいるんだ。」
『え?......僕に?』
ディーノはポリポリと頭を書きながら苦笑を漏らす。
「結構苦労したんだぜ。お前がはっきり名前と特徴を言うもんだから該当者が全然いないし。ツナとリボーンがたまたま出会ってくれて漸く身元が分かったんだからな。勿論、9代目とお前の父親には許可も貰っている。」
『..........ディーノ、なに、言ってんの?』
屋上へと続く階段を一つ一つ上っていく恭弥の足音と、僕の心音が重なる。
「なにって、会いたかったんだろ?−−−−跡部司に。」
ディーノのその言葉を聞いて、僕は恭弥から降りると一目散に駆け上がった。屋上への扉を開けて、一つの人影の元に走りよる。
喉が痛い。喉がカラカラだ。息は切れて、心音も煩い。
人影がこちらを向いた時、僕の時間が止まった。
『−−−−だれ?』
その人は黒いスーツを着こなし、クリーム色の色素の薄い長髪を緩く結わえている。そしてその顔には黒縁眼鏡。
「久しぶり。この顔には見覚えない?」
『全然。』
「小さい頃に貴女と何度か会っていると思うけど?オレガノ。この名前に聞き覚えは?」
『いや、知らない。記憶にないし。ねぇ、それより司ちゃんはどこ?』
キョロキョロと辺りを見渡せば彼女はくくくと笑っている。......あれ?この笑い方。
そう思ってもう一度見やれば、そこには先程の女性はいない、代わりにーーーー。
床に眼鏡が転がりクリーム色の髪が消え、銀色の長髪が浮かび上がる。彼女はスーツの上着を脱ぐと、例の傷を僕に見せてきた。
「ーーー今日が6月6日じゃなくて悪いな、ヒカリ。」
『......................』
「これでもまだ疑うか?」
『........................え、』
「オレガノは、コードネーム。ファーストネームは、、、ツカサ。」
『.....................ね、ほんと?本当に司ちゃんなの?』
「他に誰がいるんだ。兄貴の顔に似ているのは癪だが、こんな美しい顔、なかなかお目にかかれねぇだろ?」
この唯我独尊ぷりは、、、まさしく。
『つかさちゃ"ぁぁぁぁん!!!』
「うお、お前鼻水つけんな!」
勢いよく彼女に抱きついた。
.....けど、違和感。身長がもっと伸びてるし、抱きついた先もいつもより弾力が。
「あぁ、お前より先にこっちに来たせいか年齢が大分上なんだわ。」
『え?』
「20代。お前より大分お姉さんな。」
えええええええ!!
病院の屋上にさけび声が響き渡った。