事実上の真実
―――――――…


ズガズガと土方さんは銀さんに詰め寄ると、銀さんの胸倉をつかんだ。

「どういう事だ。ほたるはテメェーのガキなのか?」

「いや、そうとも言えば、そうとも言わないというか......」

「はっきりしやがれ!!」


だけど、銀さんの「ぼ、暴力反対〜」の言葉と近藤さんの咎める声に土方さんは渋々と手を放してくれた。


「で、万事屋ァ、本当なのか?いつから気づいていた?」


近藤さんの言葉に、銀さんはポリポリと頭をかいた。

「あーーーーー。………………わりと最初から」


「ま、俺はうすうす感じるものがありましたがねぃ。コイツはいろいろと筋が良かったし。旦那のガキと知れば納得でさァ。んで、どこの女とこさえたんです?」

「こさえてねぇよ!!」



沖田さんの言葉に銀さんはツッコミを入れたが、沖田さんはどこふく風と言ったところだった。


「ーーーあのさ、マジでこさえてないから。致してないから。銀さんはちゃんと順番を守るタイプだからぁぁ!!」


そう言って、銀さんは話し始めた。怪しい組織があって、その組織に銀さんの血が勝手に使われてしまったことを。その結果、誕生したのがほたるちゃんってことになるらしい。って、



「銀さん、往生際が悪いですよ。人の血で子供ができるわけないじゃないですか。」

「知らねぇよ!!そのモクセイ?っつー変な奴等に聞けば良いだろ。それで白黒ハッキリする。」


その瞬間、真選組の人達の雰囲気が変わった。


「その名をどこで知った。万事屋。」


近藤さんに静かに問われた。


「え?近藤さん?」


僕の問いかけに、近藤さんは暫く黙ったが意を決したように口を開いた。


「―――…今回のほたるちゃん誘拐事件は、連続幼児誘拐事件の犯人が犯した事件だった。だが、どうやらコトはそれで終わらないらしい。」

近藤さんの言葉が静かに響き渡る。


「近藤さん」

「トシ、万事屋達も無関係というわけにはいかなくなった。話すしかあるまい。」


「…わかったよ。」



「…近藤さん。じゃ、じゃあ、今回のほたるちゃんの誘拐事件は一体?」

僕は恐る恐る近藤さんを見遣る。近藤さんはふぅ、とため息をついて口を開いた。

「科学組織モクセイ。どうやら手を引いているのは奴等らしい。姿は滅多にあらわさん謎の科学集団だ。三年前に分裂騒動を起こした以来サッパリだったのだが。」

「分裂騒動?」

僕の言葉に土方さんが頷く。恐らく仲間割れだろうと。組織ではよくあることだなと自嘲していた。


「その結果、モクセイから新たにキンモクセイという組織が誕生した。その組織は何の真似か金木犀の香りを纏っているらしくてな。そいつらの足取りは既に掴んである。」


「キンモクセイ......じゃあ、あの男。」

銀さんが、組織の名前を呟いて黙り込んだ。


「……新八君たちも知っているように、今回の事件の主犯である天人が何者かに殺されていただろ?その痕跡から、天人を殺害し山崎を襲った奴は−−−モクセイの元幹部であり、キンモクセイ創始者の一人であることが分かった。名は白夜という男だ。今言えることはこのことと......」


近藤さんは沖田さんを見やった。


「その他に分かったことといやァ、天人達が起こした事件はガキの誘拐だけじゃねぇってことでぃ。生き残った天人の部下に吐かせたところ、どうやら最近起こった通り魔は奴らの仕業だったらしいですぜ。」




「なんでも、ほたるの居場所を見つけようと躍起になってた麟鵬の下っ端どもが手がかりを得ようとしたところ、そのばーさんは知らないの一点ばりでウサ晴らしにしたっつーことらしい。なんとも理不尽な話だが、ほたるを知らなかったばーさんのおかげでこっちも人員集めの時間が稼げたわけだ。ま、うちの管轄じゃねェが思わぬところで事件は解――――――」


土方さんの言葉に思わず僕は彼に詰め寄った。震える口元を抑えることができなかった。


「土方さん…その通り魔にあった被害者は三丁目の…」

「水野菊っていうババァでさァ。」


僕の言葉を繋げるように沖田さんは答える。近藤さんは銀さんを見遣った。


「その方は新八くんの知り合いだったのか?」


銀さんは、一つため息をはく。


「あ――…殺された当日にうちにきていた、俺らの依頼人だ。もちろん、ほたるともその時に会っている。」


銀さんの言葉に三人は驚きで目を見開いていた。


「じゃあ、ほたるちゃんのことを知ってて黙って殺されたってことか?」

「…肝の据わったババァでさァ。」


二人の言葉に、また体がズンと重くなった気がする。


「おい、ゴリラ。んで、そのモクセイっつーくせー組織はどうするんだ。」


銀さんの言葉に、僕は俯いていた顔を上げた。…今は悲しんでいる場合じゃないから。


「銀さん違いますよ。モクセイは中々姿をあらわさない組織で、今回の天人を裏で引いていたやつら。モクセイから断裂しその天人を殺した方の組織が金木犀の香りを纏ったキンモクセイです。」


「流石新八くんだな。」


「んだよ、紛らわしい、」



銀さんの言葉に近藤さんは苦笑し、そこで沖田さんがふと口を開いた。


「そういえば、今日はあのチャイナ見かけやせんね?ついにくたばりやしたんで?」

なんとも物騒なことをこの人はさらりと言う。

「神楽ちゃんは依頼の件でちょっと。もう少ししたらここに来ますよ。」


そう言えば、沖田さんは顔をしかめて奴が来る前にかーえろと言って病室を出ていこうとする。その時だ。
ほたるちゃんが丁度起きたのだろう、起き抜けのむずかる声が聞こえた。


「あー.....ほらほたるが起きましたぜ、パパ。」


「「誰がパパだ!!」」


沖田さんの言葉に銀さんと土方さんが否定した。俺はほたるの父親がコイツだなんて、絶対認めねーとブツブツ言いながら彼は出て行く。沖田さんはそれを見て呆れた表情をしながら病室を出ていった。


「...............」

「まぁまぁ。経緯はどうあれ、この子はお前の血を継ぐガキなんだろ。俺はお似合いだと思うけどな。」


近藤さんは銀さんの肩をポンポンと叩いて彼も病室を退出していった。



「くそ、人ごとだと思ってどいつもこいつも。」


銀さんは片手で頭をわしゃわしゃと掻きながら、グズり続けているほたるちゃんを抱き上げた。そのあやす姿は正しく父親の姿そのものだったのだけれど、それを言うときっと怒ることは目に見えていたので、そこは僕の心の中に留めておくことにした。

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