Secret baby
−−−−−−


あれから数日が経った頃、雨が降りしきる中を銀時は傘を差して歩き出した。目的地は、桂から聞き出した女ーーほたるの母親が埋葬された共同墓地だった。


「おっと、先客か。........こんな雨の日に傘も差さずに墓参りとは、死んだ女も浮かばれねぇんじゃねぇの。風邪ひくぜ。」

銀時は、一つの墓の前でしゃがみこみ手のひらを合わせている傷だらけの青年−−−白夜へと傘を傾けた。キンモクセイの香りと共に、血液の匂いがする。


「.......君には、関係ない。」

「俺は、関係ない奴から襲われたの?」


「................。」


白夜は溜息をつくと、ポツリポツリと言葉を漏らした。彼女−−−つまりはほたるの母親とは、研究者と被験者という垣根を越えた秘密の恋人だったこと、二人で組織の施設から抜け出そうとした矢先に白夜叉という男の血液を使った研究が−−−これまでの失敗が嘘のように進み始め、受精卵となり、彼女に移植されてしまったこと、を。


「うまく、いくはずなかった。けれど、彼女の持つ能力が−−−受精卵の順調な保育を促した。」


白夜がモクセイを抜け、キンモクセイという組織を立ち上げたのはその頃だったらしい。胎児を密かに堕ろすことに抵抗した彼女。無事出産できたとしても、再び彼女が被験者となるのは目に見えていため、彼女を逃し隠れさせるために作ったのがそのキンモクセイだった。


「モクセイの施設は破壊した。何人かは始末しそこねたが、主要幹部は全て片付けた。」

ほたるの顔を全国放送で流すよう仕向けたのは、そのモクセイの組織員を誘き出し現組織の施設を見つけるためだったらしい。


「僕は、謝りませんよ。彼女を餌にしたことで、結果的に早く居所を突き止めることができた。当然、こっちもタダでは済みませんでしたが。」


そのモクセイとの抗争の際に、キンモクセイの組織員(大多数は白夜達が勧誘して集めた浪士だった)も多大な人数の犠牲者をだしたらしい。モクセイとの争いが終わるや、キンモクセイは解散となった。



「君さえ、君さえいなかったら.......君の血が奴等に見つからなかったら......僕と彼女は今でも一緒にいれたかもしれなかった。」


そのことが、悔しくて堪らない。そう白夜は静かに涙を流した。



「............つまり、俺は、相当なとばっちりを受けたわけね。勝手に人の血を使って研究するわ、勝手に人のガキをつくるわ、勝手にそのガキを押しつけてくるわ。挙句、命も狙われて?いい加減、こっちは迷惑してんだよ。」



「........。」


「あいつ、随分とアンタに懐いてんだな。最近じゃ、びゃくやびゃくやって煩ぇのなんの。」


銀時の言葉を聞いた白夜は苦笑を零した。


「−−−さっさと怪我治せ。そして、たまにはアイツに顔を出してやれ。」


銀時の言葉に、白夜は立ち上がった。


「.........へー良いのか?その代わり、彼女と僕が将来、紫の上と光源氏のような関係になっても知りませんよ。」


「...........は?冗談だろ。」


「冗談?まさか。」


彼女、母親の顔と名前も一緒だし、僕の好みドンピシャなんですよ。そう言い放った彼に銀時は口端を痙攣らせた。






「..........ぱ、パパはそんな不純な異性交友は絶対認めませーん!!!」


そう叫んだ銀時に、白夜はゲラゲラと笑い声を上げた。









これが、当時二才だった彼女の物語の顛末らしい。数年後、彼女がどのように人と関わり、成長していったかは−−−また、別の機会に。


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