特殊能力発動!
―――居間にて。
僕たちはソファーに座り、僕は銀さんの隣、神楽ちゃんとほたるちゃんは一緒に座って…向かいあわせになっている。

ほたるちゃんが自身の指を弄んでいるのを見ながら、僕は神楽ちゃんにむきなおった。



「んで、神楽ちゃんどうするのその子?勝手につれてきちゃって…親御さん心配しているんじゃない?」


「勝手にじゃないアル!ちゃんとほたるがいたところの壁に“この子は歌舞伎の女王、神楽が預かった!返してほしければ、万事屋銀ちゃんまで来るヨロシ”って置き手紙残したアル!グワッハッハ!」


「グワッハッハ…って、それまんま脅迫状ォォォ!!何やってんの!それじゃあ誘拐と変わらないよ!!…ハァ、銀さんどうします―――ってアンタは何やってんだァァァァァァ!!!」




隣で銀さんがゴソゴソ何をしているかと思えば、僕たちが一番初めに出会った頃のように、大きな本格ケーキをつくっていた。しかもご丁寧にピンクのバンダナまで頭にしている。…なんか腹たつな、アレ!そう心の中で思った。





「んーー…何ってお前…ガキには甘いもんが一番だろ。俺にジャンプと糖分が必要なくらい、ガキも必要なんだよ。」


「ジャンプは銀さんだけです。」

「おま…ジャンプ舐めんなよコノヤロー。友情・努力・勝利の三本柱掲げてんだからな。マジすげーんだからな。アレ。」


「…だから何ですか。」



ハァーと僕がもう一度ため息をはきながらほたるちゃんを見ると、先程まで比較的無表情だったその顔はキラキラと輝かせて銀さんのケーキづくりを見ていることに気がついた。


「新八の負けネ。…ほたるとても嬉しそうアル。銀ちゃーーん、私も食べたいヨ!」


銀さんは立ち上がり、神楽ちゃんをちらりと見たあと、フォークでケーキを一口分掬ってほたるちゃんの隣まで移動した。


「…まー待てまて、まずはほたるからだ。ホラほたる口あけろ。」


ほたるちゃんは、素直にゆっくりと口を開ける。それを見計らって、銀さんはタイミングよくケーキを口の中に入れてあげていた。


「…うまいか?」


銀さんの問い掛けに、ほたるちゃんは笑顔でコクリと頷く。……やっぱり素直だ。だれもが癒されるような可愛らしい天使の笑顔だった。


「そうか…そりゃー良かった。」


彼女の笑みを見れたのが嬉しかったのか銀さんが誇らしそうに笑った。それから、銀さんがほたるちゃんの頭に手を伸ばそうと身を屈めたその時。
僕の脳裏にはすぐさま先程の光景が蘇った。…マズイ!



「銀さん!ほたるちゃんは…」

ビリビリ!!
特有の効果音と、一瞬見えた光。



銀さんは、その現象とおそらく身体に走った電気対して、確かに驚いてはいた。けれど、それも一瞬のことで、電気が流れるのもまるでお構いなしのような顔をしながらほたるちゃんの頭を撫で続けている。それにはさすがのほたるちゃんもびっくりしたようだ。そのクリクリとした両目が、更に大きく見開かれていて、身動き一つしていなかった。


「…銀ちゃん…大丈夫アルか?」

恐る恐ると言った感じの神楽ちゃんの声色。それは僕の気持ちも代弁してくれていた。


「大丈夫…だ。テメェらは手ェ…だすなよ。」


銀さんはそれだけ呟きほたるちゃんをゆるりと抱き締めると、さらにそれに伴って電流の強さも増していく。銀さんの顔が傍から見ても辛そうだった。


「…ック。」


銀さんの体や顔に切り傷や焦げ跡がつき、衣服はボロボロになっていく。


「銀さん、もう―――」


「ガキ…ほたるっつたか?オレを含めて、ここにはオメェーに悪さをする奴なんかいねェーよ。ガキはガキらしく、ンなきばってねェーで笑ってろや。さっき、ケーキ食った時みたいによ…」


“これは万事屋流の愛情だぜ?”


銀さんは僕の言葉を遮るようにそう言うとほたるちゃんを一度撫でて、居間を出ていった。



「銀さん!さっき…」


僕は迷わず、銀さんのあとを追い掛ける。


「あんな電気、屁でもねェーよ。新八…俺、ちょっとでかけてくるわ。」



「銀さん、あの子のこと何か知ってるんですか?」


「………。いや、あんなガキ知らねェーよ?」


「じゃあ、なんでほたるちゃんが男に怯えてるってわかったんですか?神楽ちゃんは女の子だったから普通にほたるちゃんに触れられるみたいですけど…」


僕がそう言うと、銀さんはドアに右手をかけながら僕を後ろ背に左手をひらひらさせる。


「あー…あれだ、カンだよカン。実は銀さんエスパーだから。」


「…そんな話きいたことないですよ。」


「まー…とりあえず、アイツら頼んだわ。」


それだけ言って銀さんは、万事屋を出ていった。







――――…


銀ちゃんがいつになっても帰ってこないアル。
あのクソ天パー…きっとまたどっかで飲んだくれてるネ。

新八がつくった汁は、やっぱ卵がなかったアル。
とりあえず、私、ほたるに食べさせたネ。

ごっさ可愛いアル。
私、きっとほたるのマミーになれるネ。





神楽ちゃんがそんなことを考えているなんて知らない僕は、とりあえず二人にお風呂に入るよう言ってから、一度家に戻って姉上の幼い頃の着物を拝借してきた。


(確か、姉上が三歳の時着てたって言ってたっけ…)


「神楽ちゃーん、ほたるちゃんの替えの着物おいとくから、二人とも暖まってでてくるんだよー!」


〈了解アル!〉


お風呂場にいるせいか、くぐもった返事が返ってきた。


〈ほたる、百数えたらあがるアル。ヨロシ?〉



洗面所の扉をしめる時に、背後から聞こえた神楽ちゃんの大人ぶった声に僕は微笑みをそっともらす。
なんだかんだ言っても、神楽ちゃんも女の子なんだなと思った。



それから帰ってきた銀さんと入れ替わるように僕は家に帰ることとなった。


――…




「だーかーら、ダメだって!」


「嫌アル!私、ほたると一緒に寝るネ!!」


「神楽、そんなこと言ってていいのかぁー?起きたらほたるが潰れてた、なんてシャレになんねェーぞ?やめとけ、な?酢昆布あげるから。マジで!」


銀時は神楽にそう言って押さえ付けながら、定春にこわごわ近づいて触れようとしているほたるを抱きあげた。


『…ヒャ!』


ビリビリ!!


「―――ッ!」


「銀ちゃん、やめるネ!
ほたる恐がってるアル!」


「いいーんだよ!今は!!これから慣れてもらえりゃーいいの!」


“オマエも早く寝ろ!”




銀時はほたるを片手に神楽を押し入れに押し込むと、そのまま寝室に連れていった。

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